SSS倉庫
【ギベパシ】微睡の幸福たるや
2020/11/23 04:16CP無し
すぴすぴギーベリさんとじろじろパシアさん
× × × × × × ×
パチン、と火が爆ぜた音でパシアは浅い眠りの縁から戻ってきた。瞼を緩慢にあげると、ずっと変わらず燃え続けている暖炉がある。
薪が絶え間なく足されているわけではない。持ちがいいものを使用しているわけでもない。
ギーベリ・エアハルテンが成す力が、暖炉と言う小さな区画に割り当てられているのだ。
彼の魔法の属性は「維持」である。対象物の状態を常に「維持」し続けていられることが彼に与えられている力であり、そして、彼が人を疎む原因になったものでもある。冬の寒さが厳しいこの国において、彼の能力は奇跡のそれだ。火の魔法を使えるものがただでさえ重宝されるのに、それを維持することが、暖炉の火を一定に保ち続けることが出来るという能力が、奇跡だと言っていい。
彼はそれを手札に人を使うこともしたし、見せびらかす真似はしないが、恩恵にあずかろうと近寄ってきたものはかなり手ひどい扱いをして捨てているらしいことは有名だ。
それを差し置いてもまだ彼に人が縋るのは、彼の力が欲しいがためであることはパシアもよく分かっていた。実際、父親たる王が自分と彼をあわよくば、と考えているのも、存じていることだ。
(ギーベリと、いつでも会いたい、でも、めいわくをかけてしまう)
そう幼い頃、彼に伝えたことがあった。彼は自分の髪を優しく梳きながら、何故です、と尋ねたと思う。
(ちちうえは、わたしがギーベリとこんぎを結べばよい、とおもっているとおもう)
そうでしょうね、と彼は何でもないように言った。
(でも、それではギーベリの周りにいる大人といっしょになってしまう)
ほたり、と涙が手に落ちたのを自分で見ていた。
(私は、ギーベリと友達でいたいのだ)
彼の周りにいる多くの大人の女性は華美だった。美しいドレス、美しい肌、美しい髪、宝飾品、立ち振る舞い、どれを見ても、あれが本来の貴族たる女性のふるまいだとわかっていた。幼いながら、自分にそれらが無いことは、わかっていた。
そしてそれらを持っている女性をギーベリが、侮蔑しているらしいことも分かっていた。
(ギーベリに嫌われたくない)
大人になって、父や母に、あのようになりなさいと言われるのが怖かった。そうなってしまうと、ギーベリに嫌われる。大人になったらギーベリが離れていくような気がしていた。
嫌われたくない、と泣く私の手を、彼が包んだと思う。
(友だとおっしゃるなら、そのような事は言わないでください、貴女が私を友と呼んで下さるなら、私も貴女を友だと呼びます)
もしあいたいなら。父君の思惑を使ってやればいいんです、と彼がそういった。
だからこうして、今でも王宮を抜け出すのは簡単だった。ギーベリのところへ行くと言えば、侍女たちはみんなにこにことして送り出したし、父や母も嫌な顔をしない。もう自分がいつでも誰かの妻になれる年齢と体なのはわかっていて、なんとなくその笑顔はうすら寒かったが、ギーベリがいいというのだから、良いんだと思うことにした。
ぼんやりとそんなことを思い返しながら、ああ、転寝をするとギーベリに怒られる、と思ったが、同時に静かだ、という事にも気が付く。
ギーベリはあまりしゃべる男ではない。だから珍しい事ではないのだが、と思って、横をちらり、と伺い、瞬間、目を大きく見開いてまじまじとそれを見てしまう。
(お、おお、眠っている!!)
珍しい。本当に珍しい。ギーベリが転寝をしている。初めて見たかもしれないその顔をまじまじと観察してしまう。これほど視線を送っているのに起きないあたり眠りは深いようだ。
腕を組んだ状態で、ただじっと寝息だけをたてている。眉間は緩やかで皺がなく、いつもの鋭い青の眼光も瞼の中にしまわれている。自分といるとき決して笑顔をつくらない口元は緩く結ばれていて、彼のいつも纏っている他者を寄せ付けないかのような気配は潜まっていた。
「ギ、ギーベリ、風邪をひくぞ?」
恐る恐る、いつも自分が言われてばかりだった言葉を言う。
それでも彼が目を開けることがないくらい眠っていることに、どうしてか胸の奥がトコトコとせわしなくなるような、じわじわと温かくなっていく不思議な感情に、胸を抑えて、口角がきゅうっとあがるのを自覚してしまう。
「ふ、ふふ、しょうがない奴め、私がこうなれば友を護ってやるしかあるまいな」
姿勢を正し、座りなおす。暖炉の火がギーベリの淡い桃色と金の髪の毛を照らしていて、すうすうと静かな寝息が聞こえることに、パシアは所謂優越感、を覚えていた。
「う、うんうん、寒いといけないからな」
彼が先に自分にかけておいてくれたらしい毛布を、そっと彼の膝に掛ける。ぽすぽすと起こさない程度に軽く叩きながら、穏やかな寝息を聞く。
ギーベリも眠るのだ、と当たり前の事なのだが改めてそう思う。幼い頃自分のお守りをしていたときの彼はよく笑っていた。神経を張り詰め、いつでも他者からのごますりやご機嫌取りに反応できるようにしていたことを知っている。
段々自分から、彼の家に遊びに行くようになって彼は顔から笑顔を取った。
それは、自分が嫌なのではなくて、「作り笑いを止めた」のだ、という事実に気が付いたのもすぐだった。自分といるときギーベリがいかに、素を露にしているか、己を偽らずそのままで自分と相対しているのか、パシアはよく知っていた。
加えて、今日のこの転寝だ。
(これは完全にアレではないか???と、と、友達、いや、親友認定ではないか!!)
自分から友、と良く呼ぶが、15を過ぎたあたりからギーベリから友といってくれることは少なくなった。多分、適齢になったこともあったのだろうがそれでも寂しかった。
が、これは間違いなく、信頼されているのだ、とパシアは強く勝手に確信して、それから、ほこほこと顔を喜びで上気させた。
× × × × × × ×
まちがいなくマブダチ(ただしギーベリさんは「は?」ってなる)
× × × × × × ×
パチン、と火が爆ぜた音でパシアは浅い眠りの縁から戻ってきた。瞼を緩慢にあげると、ずっと変わらず燃え続けている暖炉がある。
薪が絶え間なく足されているわけではない。持ちがいいものを使用しているわけでもない。
ギーベリ・エアハルテンが成す力が、暖炉と言う小さな区画に割り当てられているのだ。
彼の魔法の属性は「維持」である。対象物の状態を常に「維持」し続けていられることが彼に与えられている力であり、そして、彼が人を疎む原因になったものでもある。冬の寒さが厳しいこの国において、彼の能力は奇跡のそれだ。火の魔法を使えるものがただでさえ重宝されるのに、それを維持することが、暖炉の火を一定に保ち続けることが出来るという能力が、奇跡だと言っていい。
彼はそれを手札に人を使うこともしたし、見せびらかす真似はしないが、恩恵にあずかろうと近寄ってきたものはかなり手ひどい扱いをして捨てているらしいことは有名だ。
それを差し置いてもまだ彼に人が縋るのは、彼の力が欲しいがためであることはパシアもよく分かっていた。実際、父親たる王が自分と彼をあわよくば、と考えているのも、存じていることだ。
(ギーベリと、いつでも会いたい、でも、めいわくをかけてしまう)
そう幼い頃、彼に伝えたことがあった。彼は自分の髪を優しく梳きながら、何故です、と尋ねたと思う。
(ちちうえは、わたしがギーベリとこんぎを結べばよい、とおもっているとおもう)
そうでしょうね、と彼は何でもないように言った。
(でも、それではギーベリの周りにいる大人といっしょになってしまう)
ほたり、と涙が手に落ちたのを自分で見ていた。
(私は、ギーベリと友達でいたいのだ)
彼の周りにいる多くの大人の女性は華美だった。美しいドレス、美しい肌、美しい髪、宝飾品、立ち振る舞い、どれを見ても、あれが本来の貴族たる女性のふるまいだとわかっていた。幼いながら、自分にそれらが無いことは、わかっていた。
そしてそれらを持っている女性をギーベリが、侮蔑しているらしいことも分かっていた。
(ギーベリに嫌われたくない)
大人になって、父や母に、あのようになりなさいと言われるのが怖かった。そうなってしまうと、ギーベリに嫌われる。大人になったらギーベリが離れていくような気がしていた。
嫌われたくない、と泣く私の手を、彼が包んだと思う。
(友だとおっしゃるなら、そのような事は言わないでください、貴女が私を友と呼んで下さるなら、私も貴女を友だと呼びます)
もしあいたいなら。父君の思惑を使ってやればいいんです、と彼がそういった。
だからこうして、今でも王宮を抜け出すのは簡単だった。ギーベリのところへ行くと言えば、侍女たちはみんなにこにことして送り出したし、父や母も嫌な顔をしない。もう自分がいつでも誰かの妻になれる年齢と体なのはわかっていて、なんとなくその笑顔はうすら寒かったが、ギーベリがいいというのだから、良いんだと思うことにした。
ぼんやりとそんなことを思い返しながら、ああ、転寝をするとギーベリに怒られる、と思ったが、同時に静かだ、という事にも気が付く。
ギーベリはあまりしゃべる男ではない。だから珍しい事ではないのだが、と思って、横をちらり、と伺い、瞬間、目を大きく見開いてまじまじとそれを見てしまう。
(お、おお、眠っている!!)
珍しい。本当に珍しい。ギーベリが転寝をしている。初めて見たかもしれないその顔をまじまじと観察してしまう。これほど視線を送っているのに起きないあたり眠りは深いようだ。
腕を組んだ状態で、ただじっと寝息だけをたてている。眉間は緩やかで皺がなく、いつもの鋭い青の眼光も瞼の中にしまわれている。自分といるとき決して笑顔をつくらない口元は緩く結ばれていて、彼のいつも纏っている他者を寄せ付けないかのような気配は潜まっていた。
「ギ、ギーベリ、風邪をひくぞ?」
恐る恐る、いつも自分が言われてばかりだった言葉を言う。
それでも彼が目を開けることがないくらい眠っていることに、どうしてか胸の奥がトコトコとせわしなくなるような、じわじわと温かくなっていく不思議な感情に、胸を抑えて、口角がきゅうっとあがるのを自覚してしまう。
「ふ、ふふ、しょうがない奴め、私がこうなれば友を護ってやるしかあるまいな」
姿勢を正し、座りなおす。暖炉の火がギーベリの淡い桃色と金の髪の毛を照らしていて、すうすうと静かな寝息が聞こえることに、パシアは所謂優越感、を覚えていた。
「う、うんうん、寒いといけないからな」
彼が先に自分にかけておいてくれたらしい毛布を、そっと彼の膝に掛ける。ぽすぽすと起こさない程度に軽く叩きながら、穏やかな寝息を聞く。
ギーベリも眠るのだ、と当たり前の事なのだが改めてそう思う。幼い頃自分のお守りをしていたときの彼はよく笑っていた。神経を張り詰め、いつでも他者からのごますりやご機嫌取りに反応できるようにしていたことを知っている。
段々自分から、彼の家に遊びに行くようになって彼は顔から笑顔を取った。
それは、自分が嫌なのではなくて、「作り笑いを止めた」のだ、という事実に気が付いたのもすぐだった。自分といるときギーベリがいかに、素を露にしているか、己を偽らずそのままで自分と相対しているのか、パシアはよく知っていた。
加えて、今日のこの転寝だ。
(これは完全にアレではないか???と、と、友達、いや、親友認定ではないか!!)
自分から友、と良く呼ぶが、15を過ぎたあたりからギーベリから友といってくれることは少なくなった。多分、適齢になったこともあったのだろうがそれでも寂しかった。
が、これは間違いなく、信頼されているのだ、とパシアは強く勝手に確信して、それから、ほこほこと顔を喜びで上気させた。
× × × × × × ×
まちがいなくマブダチ(ただしギーベリさんは「は?」ってなる)