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【ギベパシ】もう一度、誰かを
2020/11/23 04:07CP無し
カップルではない。
パシアさん幼女の姿。
× × × × × × ×
はっきり言って、傍から見れば今のギーベリ・エアハルテンの状況は完全な、「お守り」だ。王宮に向かう際の少し装飾が凝らされた服と剣を身にまとって、短い春の季節に一斉に咲き誇る花の中に紛れて、赤と金の特徴的な髪色の小さなお姫様がぴょこぴょこと跳ね回っているのを、ただぼーっと見ている。
別に、王女と最近仲がよろしいからといって王から直々に仰せつかったわけではない。
あの花畑の中でなんだかえらく楽しそうに跳ね回ってるお姫様から謁見を終えて帰路につこうとしていた自分に声をかけてきたので、ついてきたのだ。
「良かったらお散歩に参らぬか」だなんて、子供なのか大人ぶってるんだかわからないごちゃごちゃの言葉使いで自分を見上げてきて、自分の服の裾をぎゅっと小さな手が掴んで離さない。正直、子供の類は苦手な所だった。女同様だが、こっちに近づいてほしいとは思わない生き物だ。ただ、この王女に関しては既に別モノだった。言ってしまえば、多少の憐憫があるだろう。幼かった頃の自分と多少重ねる部分もあった。
それに、自分を唯一の友だといってくれるこの、幼い子供に対して辛辣に当たるほどギーベリは冷めた男ではなかった。
彼女のおかれる立場や扱いを思えばこそ、一個人として接してやろうと思うし、幼いながらパシアも己を「エアハルテン公」ではなく「友達のギーベリ」として接してくるのだからそれを素直に受け取ろうと思えるのだ。
それはそうとして、仮にも王女様とお散歩に来たのだから一緒に歩くべきなのだろう。だがどういうわけか彼女からそこにいるようにとのお達しを受け、こうして手持無沙汰に跳ね回るお団子頭を見ているしかない。
「(暇だ)」
ついついそう口の中でつぶやく程度には暇だった。暇だったが、ギーベリ自身滅多にない時間である。
社交会だろうが何だろうが、予定はわりと詰めてあって、いつも顔色を見て他人と接し、印象が悪くならぬよう、下に見られぬよう気を使っているのだが、彼女といる場合別だ。
例えるなら、パシアという少女は、己が築いた全ての壁を畳み、窓を全て開けて無条件で迎え入れる春風のような子だろう。己を取り繕う必要性などなく、また彼女も、そうなのだろうと感じることがある。
かさかさと草と服が擦れたり、彼女の小さな足が草を踏んでいく音を聞きながら、もっと早い段階でこんな友人がいれば自分は何か変わったろうか、と思う程だ。
「ギーベリー!ここちいいのはわかるが、こんなとこでねたらだめだ!!」
「うおっ」
胡坐に頬杖という騎士としては何とも立派とはいえない状態で目を閉じ考え込んでいたらこれである。
わがもの顔で股座にぽんと腰かけ、やたらでかい声で話しかけてくるのがこの小さな小さなお嬢さん、パシア・ゼー・ドルクだった。
「じゃん!」
「……なんです」
「わたしのすきな花だ!」
目の前に突き出された小さな両手に小さな白い花がこれでもかと握られている。
ギーベリにやろう、といいながら彼女はただただ幸せそうに、王宮でのあの暗い顔などどこへやらと言った具合で、無邪気に笑う。
「私が頂いてよろしいので?…女性から花を貰うのは初めてですが」
「おお!!なんとー!!それはぎょーこーである!」
ああ、これはちゃんと意味が分かってないで使ってる単語だ、と呆れる。難しい言葉を覚えだすと何かと彼女は頻繁に使って見せた。バカだな、とは言わないが、賢いですねと褒めたこともない。
「わたしがいちばんのりだな! ……ふふっ」
「……ああ、そうですね、一番です」
両手いっぱいに摘んできたそれを受け取りながら、生まれて初めて、下心なしにもらった花束をしみじみと眺め、それから自然と目元が緩むのを自覚はしたが、それでもいいかと思えるほどにはこの小さなたった一人の友人がくれたプレゼントが嬉しいと思うのだ。
「ギーベリは何の花が好きなんだ?」
「私ですか?……そうですね、」
何が好きか、と考えている間にも、自分の胡坐を占拠している少女は自分が好きな花をつらつらとあげつらねる。多くは野花の名前で、きっとそれらは彼女が寂しさを紛らわすのに見ていた本から得た知識なのだろうな、と察することができる。
自分の顔を見るまでずっと暗い顔で俯いてばかりの少女は、今こうして、こんなにいっぱいたくさんすきだ、と小さな両腕をうんと伸ばして笑って見せる。
「いっぱいたくさん好きなんですか」
「そーだ!たくさんいっぱいすきだ!」
「はあ」
左の指で、小さな頬をちょんとつついてやればくすくすと笑って見上げる少女がいる。
「パシア様が下さるものでしたら、私は何でも好きですよ」
だから、あなたの好きなものを沢山教えてくださいね、と声には出さなかった。
× × × × × × ×
いいコンビです
パシアさん幼女の姿。
× × × × × × ×
はっきり言って、傍から見れば今のギーベリ・エアハルテンの状況は完全な、「お守り」だ。王宮に向かう際の少し装飾が凝らされた服と剣を身にまとって、短い春の季節に一斉に咲き誇る花の中に紛れて、赤と金の特徴的な髪色の小さなお姫様がぴょこぴょこと跳ね回っているのを、ただぼーっと見ている。
別に、王女と最近仲がよろしいからといって王から直々に仰せつかったわけではない。
あの花畑の中でなんだかえらく楽しそうに跳ね回ってるお姫様から謁見を終えて帰路につこうとしていた自分に声をかけてきたので、ついてきたのだ。
「良かったらお散歩に参らぬか」だなんて、子供なのか大人ぶってるんだかわからないごちゃごちゃの言葉使いで自分を見上げてきて、自分の服の裾をぎゅっと小さな手が掴んで離さない。正直、子供の類は苦手な所だった。女同様だが、こっちに近づいてほしいとは思わない生き物だ。ただ、この王女に関しては既に別モノだった。言ってしまえば、多少の憐憫があるだろう。幼かった頃の自分と多少重ねる部分もあった。
それに、自分を唯一の友だといってくれるこの、幼い子供に対して辛辣に当たるほどギーベリは冷めた男ではなかった。
彼女のおかれる立場や扱いを思えばこそ、一個人として接してやろうと思うし、幼いながらパシアも己を「エアハルテン公」ではなく「友達のギーベリ」として接してくるのだからそれを素直に受け取ろうと思えるのだ。
それはそうとして、仮にも王女様とお散歩に来たのだから一緒に歩くべきなのだろう。だがどういうわけか彼女からそこにいるようにとのお達しを受け、こうして手持無沙汰に跳ね回るお団子頭を見ているしかない。
「(暇だ)」
ついついそう口の中でつぶやく程度には暇だった。暇だったが、ギーベリ自身滅多にない時間である。
社交会だろうが何だろうが、予定はわりと詰めてあって、いつも顔色を見て他人と接し、印象が悪くならぬよう、下に見られぬよう気を使っているのだが、彼女といる場合別だ。
例えるなら、パシアという少女は、己が築いた全ての壁を畳み、窓を全て開けて無条件で迎え入れる春風のような子だろう。己を取り繕う必要性などなく、また彼女も、そうなのだろうと感じることがある。
かさかさと草と服が擦れたり、彼女の小さな足が草を踏んでいく音を聞きながら、もっと早い段階でこんな友人がいれば自分は何か変わったろうか、と思う程だ。
「ギーベリー!ここちいいのはわかるが、こんなとこでねたらだめだ!!」
「うおっ」
胡坐に頬杖という騎士としては何とも立派とはいえない状態で目を閉じ考え込んでいたらこれである。
わがもの顔で股座にぽんと腰かけ、やたらでかい声で話しかけてくるのがこの小さな小さなお嬢さん、パシア・ゼー・ドルクだった。
「じゃん!」
「……なんです」
「わたしのすきな花だ!」
目の前に突き出された小さな両手に小さな白い花がこれでもかと握られている。
ギーベリにやろう、といいながら彼女はただただ幸せそうに、王宮でのあの暗い顔などどこへやらと言った具合で、無邪気に笑う。
「私が頂いてよろしいので?…女性から花を貰うのは初めてですが」
「おお!!なんとー!!それはぎょーこーである!」
ああ、これはちゃんと意味が分かってないで使ってる単語だ、と呆れる。難しい言葉を覚えだすと何かと彼女は頻繁に使って見せた。バカだな、とは言わないが、賢いですねと褒めたこともない。
「わたしがいちばんのりだな! ……ふふっ」
「……ああ、そうですね、一番です」
両手いっぱいに摘んできたそれを受け取りながら、生まれて初めて、下心なしにもらった花束をしみじみと眺め、それから自然と目元が緩むのを自覚はしたが、それでもいいかと思えるほどにはこの小さなたった一人の友人がくれたプレゼントが嬉しいと思うのだ。
「ギーベリは何の花が好きなんだ?」
「私ですか?……そうですね、」
何が好きか、と考えている間にも、自分の胡坐を占拠している少女は自分が好きな花をつらつらとあげつらねる。多くは野花の名前で、きっとそれらは彼女が寂しさを紛らわすのに見ていた本から得た知識なのだろうな、と察することができる。
自分の顔を見るまでずっと暗い顔で俯いてばかりの少女は、今こうして、こんなにいっぱいたくさんすきだ、と小さな両腕をうんと伸ばして笑って見せる。
「いっぱいたくさん好きなんですか」
「そーだ!たくさんいっぱいすきだ!」
「はあ」
左の指で、小さな頬をちょんとつついてやればくすくすと笑って見上げる少女がいる。
「パシア様が下さるものでしたら、私は何でも好きですよ」
だから、あなたの好きなものを沢山教えてくださいね、と声には出さなかった。
× × × × × × ×
いいコンビです