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【リンカタ】何故かとても構われる

2020/11/23 03:45
リーンハルト×カタシロ(男男)
箱庭世界観、仲良しな爺どもとリーンハルトさん(リーンハルト視点)。未だ付き合ってないんだがラディエにちゃちゃいれられる。
仲良し空間だから喧嘩はしないです。
※カタシロさんとラディエさんは宿敵です(雑な説明)
※露骨にストレートな単語がぽんぽんでます

× × × × × × ×
 リーンハルト君、と呼ぶ声は上司であり思い人であるその人の声と殆ど一緒だ。それでも「君」とつけて呼ぶのがその人で、恐ろしい存在としてしか認識していなかったラディエという人物の様々な一面に拍子抜けしそうになる。

「今日はお一人で作業ですか、」
「え、あ、ああ、はい」

 周囲を見回すこともなくただこちらをまっすぐ見据えてその人は言う。幾重にも重なった白が、大佐とは対照的で、黙っていれば清らかな人に見えるのに瞳の奥はゆらゆらと歪な炎が燃えているようにも思う。それでもここでは「仲良くやろう」という取り決めで、思いのほか問題なくこのラディエという人も馴染んでいたし、大佐ともいつのまにか蟠りのようなものが溶けていた気がする。

 それはいい、それはいいのだ。

「休憩に致しませんか?」
「え……?バレトアさん、と、ですか?」
「僕では不満ですか?……ああ、カタシロの方が心躍りますか?」
「いえ、そのような事」
「カタシロは僕と違って高潔ですし綺麗ですものねえ、わかりますよ、心を傾けてしまうのも」
「い、いきましょう!休憩!」

 しまった、露骨に慌ててしまった、と思ってもどうにもならないのであきらめる。こうなったら腹を括る、なるようにしかならない。
 いつ、何故、どうして、かは全くわからないがどうにもこの人に、自分の心を見透かされていたらしかった。大佐と古くからのご友人であったことはここに来てから知った事だったが、とにかく大佐とよく一緒にいた気がする。
 歩き出すと当然のように横に並ぶ意図がつかめない。大佐の隣に並ぶべきは自分ではなくやはりこの、美しい人だとつくづく思い知るし、出来ればそっとしておいてほしいのにこうして話しかけに来ることが増えたと思う。
 近くに来られてしまうとそれだけなんというか、劣等感とか、二人の間にある、解れたとしても密な関係の紐が見えてしまってため息しか出てこない。

「ため息をつくと」
「はい?」

 綺麗な声、とふと思う。声は確かに大佐と似ているのに、バレトアさんの声というのは氷のように透き通った音のように感じる。

「君が、そうして切なそうにため息をつくとカタシロに僕が怒られる」
「え?」

 どういうことだろうか、と、つい立ち止まったのが間違いだった。彼の真っ白な手袋越しの細い指が顎の輪郭をなぞって、そのまま捉える。
 明らかなそういう意図をもってなぞられた輪郭がぞわぞわとしていく。

「いじめてやるな、と怒るんですよ、僕は君と仲良くなりたいのに、ねえ?」
「は、はは、ははは……ちょ、ちょ、っとちか、近いですよ」

 さらりとした、細くて手入れが行き届いた前髪がこちらの額にかかるほどに近い。近くで見れば見るほどこのラディエ・バレトアという人は、妖しい美しさを湛えている。

「僕と手を組みませんか?僕ならカタシロの事をよぉく知ってる」

 耳元に唇が寄せられて、そっと囁かれた言葉にびくりと肩を竦ませる。手を組む、というのは、どういうことですか、と尋ねる前に彼がくすりと笑ったのが聞こえた。

「……好きな女の子のタイプもわかるし、ああ、彼の精通した年齢だってしってますよ?」
「いやそれは聞きたくないです!!!遠慮します!!」

 好きな人の事は何でも知りたくなりませんか?僕はそうだ、と耳元で大佐と同じ声が再び囁きかけてくる。自分の胸板を彼の指が上から下へ、下から上に、行ったり来たりを繰り返すのに振り払うことも出来ないで、ひきつった笑いだけを浮かばせる事しか出来ていない。

「可哀想に、まだ20代だって言うのに、ねえ、持て余して」
「しょ、処理は適切にしておりますので」
「カタシロで?」
「ぶっ」

 何を言うんだこの人は、と喉に声が引っかかって出てこない。

「ちょっと興味がありますね、どんな感じを想像してるんですか?抱きたいんですか?抱かれたいんですか?」
「だあああああ……止めてください!やめてくださいよ!!!」

 教えてくださいよ、と年の割に綺麗な顔が迫ってきたのと、廊下の奥から駆けてくる足音が聞こえてきたのが一緒で、視線をそちらに向ければ大佐がものすごい形相でこちらにかけてくるところだ……と認識した瞬間に顎を掴まれて唇の端にキスをされた。あっという間の事に避けることもままならなかった。

「ラディエッッ!!!貴様!!!」
「カーターシーロー!遅かったですねえ、」

 強い力で引きはがされて、気が付けば目の前に大佐の背中がある。ああ、庇われたのか、と暫くしてから状況を脳が理解して納得する。

「何をした!!」
「えぇ?何をって、……君も大人でしょ?」
「部下に手を出すなと言った!」

 いつになく声を荒げる大佐は、本当に初めて見るかもしれない。

「手は出してませんよ、あ、ちょっとは出しましたが」
「口も出すな!!!」
「良いじゃないですか、挨拶みたいなものでしょ」
「お前のところの船長とうちの部下は違う!」

 ラディエ・バレトアが所属しているのは、ロルフという人物が率いている海賊集団で、この空間で初めて分かったがかなりの好色家…好色というかあれは博愛主義者と言った方が近い。
 確かにあの男性は頬や額にキスを送っているなあと思っていた。そのような人に感化されたうえでの先ほどの行動なのであれば納得もいく。

「そんな怒らないでくださいよ、リーンハルト君だって男なんですしキスの一つや二つでガタガタ言うのは君だけですよ」

 やけに楽しそうな笑い声と一緒にそういうバレトアさんの声だけが耳に入ってくる。
 まあ、確かにキスくらいでは気にしないけれど。
 というか、大佐の角度からみたらそう見えたかもしれないが、敢えて直接触れないよう外してくれたのは気遣いか何かだろうかと思ってしまう。

「大体にしてキスしただけでしょ、セックスしたわけじゃないんですから」
「キスもセックスもやめろ!」
「君の口からセックスなんて言葉が出るとわくわくしますね」

 確かに、わくわくはしないがドキッとはする。と内心頷くだけにとどめておく。ドキリというかギョッというか。

「そんな堅物だから……」

 大佐の肩越し、バレトアさんと目があった様な気がした。

「恋人も出来ないまま爺さんになるんですよ?」

 関係ないだろうという大佐の声は相変わらず大きい。バレトアさんと話している時、大佐はいつもどこか幼い言葉、というか、いつもの空気感が失せている気がする。それはバレトアさんも同じらしく、イニィさんが「カタシロ大佐と居る時のお爺様は子供みたいで」と笑っていたのを思い出す。

「リーンハルト君は僕が大好きだからいいんです」
「そんなわけあるか!!!」
「おやあ、そんな躍起になって否定してぇ」
「若者をおちょくるなと何度申し上げたらわかって下さるんだ貴方は!!」
「おちょくってませんよお、僕は……君こそ若者を誑かして可哀想に」
「は?」
「ば、バレトアさん!!!!あの!!!!!」

 それ以上は不味い、と思って顔を出したのがそもそも間違いだったかもしれない。華奢なのに力強い腕で、二の腕を掴まれて気が付けばバレトアさんの腕の中に捕まっている。
 何の匂いだろうか、ふわりと鼻孔を香水が撫でていく。

「ラディエ!!!」
「僕ならリーンハルト君をずうっと可愛がってあげられますもの、ねえ」
「ちょ、ちょっと、」

 大佐の怒ったような顔が目に入ったのに、すぐに顔を押し付けられて見えなくなってしまう。

「カタシロよりも絶対セックス上手ですし」
「はあ!?」
「は!?」

 ちょっと待ってくださいと言おうとしてまたきつく抱きしめられる。魔女と怖れられるだけでなく、剣の腕前も相当だというその噂通り、服に隠れてわからないだけらしいがっちりした腕が捉えて離してくれない。

「ね、リーンハルト君、僕にしませんか?あんな爺さんよりいいですよ」
「い、いや自分は」

 優しい手つきが頭を撫でて、耳の後ろを指がなぞって行き、再びその顔が近づいてくる。

「ラディエ!!」

 不味い、と思った瞬間に、バレトアさんと自分の間に見慣れた服の袖が割って入って、それから強く抱き寄せられる。今度は大佐の方に。
 どうして俺は二人の間でとったりとっかえされたりしているんだろうと思ってしまう。

「俺の部下だ!!馬鹿を言うな!」
「ふふふ、ふうん、へえ、俺の、部下ですか、ふうーーん、俺の、ですか」
「そうだ、俺の部下だ、好き勝手してもらっては困る」

 俺の部下、という言葉は素直に嬉しい。大佐はいつも自分の事を褒めて下さったが、やはり、カタシロ大佐の部下だと口に出して本人に告げて貰えるのは嬉しい。

「でも恋人ってわけじゃないんですから別に僕がリーンハルト君とどうなろうがいいでしょ」
「ダメだ!!!」
「なんで?」
「なんででもだ!」
「どうして??」
「うるさいな!」
「はあーーー意地悪爺さんですねえ、更年期です?」

 お前が怒らせてるんだろうと頭上から声がする。いや、なんか、もう、何から考えたらいいか全然思考回路が収集できてない。一気に色々入りすぎる。
 大佐とバレトアさんが随分幼いやりとりなさってる、とか、バレトアさんこれ絶対俺の反応を楽しむために言っている、とか、それに対して、大佐がダメだと言ったことだとか、ずっと抱きしめられているのは部下としてどうだ、とか、一気に押し寄せる情報にどう対処して整理していけばいいのかわからない。

「とにかくダメだ!俺のだ!!!!」

 じわ、と耳が熱くなったと思う。例え、例え売り言葉に買い言葉で発言したことだったとしても。はっきりと俺のだ、と言われてそわつく。

「僕にも半分くださいよ、こんなに一途で可愛いんですから昔みたいに、二人でわけっこしましょ?彼も嬉しいと思います」
「やらん!!!ダメだ!!!俺のなんだからダメだ!」
「つれないですねえー、カタシロォ」

 やたらバレトアさんの声が楽しそうに弾んでいる。さっきからずっと楽しそうだけれど。
 俺はそれどころじゃない。全然。なんかもう、パンクしそう。頭が。
 え?何?どういうことだろうか??なにがどうなっているんだろう。好きな人から俺のものだ、ってしきりに言われてる。どうしよう。ああ、俺、どうしよう。
 抱き締め方はバレトアさんと同じだ、とどうでもいいことを考えていったん落ち着こう、いや、やっぱり無理だ。

「君……だって、勃ちます?彼20代ですよ?相手出来るんですか?二人の方が良いですよ」
「なっ、あっ……」

 腕に一層力が入った気がする。苦しい。
 いやそんなぶっ飛んだ話しないでください。俺、まだ大佐に告白さえしてないというか告白する気さえなかったのに。どうして。
 いや、でも、大佐の声も動揺が走っている。そう、そうだよなあ。

「そ、そんなことはなぁ!!」
「大事ですよお?だってヤりたい盛りなんですもの、爺さん相手じゃねえ……?抱き続けられますう?爺さんのくせにい……僕は魔術でどうにでも出来ますが」
「だっ……」

 ふっふっふ、と楽しそうにバレトアさんが笑っている。いや、俺はその、別に無理してもらわなくても。っていうか大佐も俺の事?え?本当に……?
 大佐の反応に期待してしまう。もしかして、もしかしなくても、良いんだろうか、と思ってしまう。

「ど、どうしたいかはリーンハルトが決める事だろうが!」
「そぉですけどねぇ」

 これ、どんな顔をして大佐をみれば俺はいいんだろうか。
 この腕が解かれた時、俺は一体どんな顔で、上司と、年が離れた想い人と向き合えば、向き合うのが正しいんだろうか。
 焦りながら大佐の服の裾を握ると、また腕の力が強くなった気がした。

× × × × × × ×
だいぶ前にしたためたやつだったんですが5千字くらいあるーーSSと言い張る。
おじいちゃんたちが仲良し可愛いね。

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