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【IFCP】毒牙を受けたのはどちらだったか

2020/11/23 03:16
IFCPのSSS
そうだね、シリーズなんだね

①悪い大人の毒牙
②悪い大人と毒牙
③青年は毒牙を受ける

の順番ではあるが何処読んでもいいね

ガエル×オルソ
× × × × × × ×

 驚きに目を見開いている年下の男の顔をみて、つい出そうになった笑いを堪えた。堪えながら軽く触れただけの唇を離す。小さくガエルの唇が何かを言おうとして、きゅ、ときつく閉じるのを確認してから視線を合わせると、可哀想なくらい赤くなっているのに、堪え切れず噴き出してしまう。

「ごめん」

 直ぐに謝罪をしたが、彼の反応はただ、その手に持っていたタブレット端末をきつく握っただけだった。

「嫌だったかな…」

 どう見ても嫌だという反応ではないが、あえてそう尋ねると彼はやっと首を左右に小さく降る。

「良かった、安心したよ」

 お付き合いを初めて随分経過したものの、それでも何のアクションも取らない彼に先に動く事にしたのは自分だった。色々な事を予測したり仮説を立てたうえで実行したが、別に極まって潔癖なわけじゃあなかったらしいことにひとまず安心した。彼ほど年が若いわけでもないし、覚えたての子供でもないからがっつきはしないがそれでもキスの一つもないというのはずいぶん寂しいと思ってしまうのはたぶんアイツの所為だろうなあと思う。あの男は好きだとすぐ口にするし、キスも頻繁だった。
 彼とは、真逆の男だ。

「じゃあもう一度だけしていいかな」

 そっと肩を抱いて引き寄せただけで彼は大きな体を緊張で固くする。彼がどちらを望んでいるのか、はわからないがどっちであっても答えることができる経験はある。そう思いつつ彼を伺うと、また彼はタブレット端末をぎゅ、と強く握る。

「嫌だったら、嫌だっていっていいんだからな?」

 小さく首が左右に振られて、少し落ち着いたのか、赤みは少しだけ引いていた。

「オルソさ、」
「ガエル、あんまり年上を煽るとひどい目見るぞ」
「え」

 経験はあると彼は言っていたことがあったが、それにしたってあまりにも純すぎる反応にいじわるがしたくなってしまう。
 耳にキスを送ると想像通りこういうことをする相手とは縁がなかったらしい。びくりと肩をすくませて小さく声が上がった。

「年甲斐もなくおじさんが調子に乗るだろ」
「あ、の、私」
「ガエル、一つ大事なことを確認していいかな」
「は、はい」

 こくんと頷く素直さについ、笑みがこぼれてしまう。

「ガエルはどっちがしたいんだ?」

 御互いにとってひとまず確認しなくてはいけないことだ、とは常々思ってはいたのだが。その機会どころか雰囲気にさえならない。
 恋人関係になった割に彼があまりにも、清廉潔白、と言わんばかりの絵空事のような清いお付き合いの仕方をするものだから、水を差すのも悪いしな、と聞けずにいた。それでも恋人になった以上、好き同士である以上、ガエルだってそういう性的欲求はあるだろうと勝手に思っていたし、自分にだって、まあ、年齢を考えると恥ずかしいがあるのだから、と考えていたのだ。

「おっさんとなんて考えられないって場合だったらいいんだけど、一応聞いておかないとまずいか、と思って」

 それ以上、いたずらをせず彼が答えるのを待っていると、数分経ったか、大分長く考え込んでいた彼は静かに口を開いた。

「オルソさんを、抱きたいです、ごめんなさい」

 ぽとりと零すように吐き出された言葉と、泣きそうな声に顔を伺ってしまう。

「どうして謝るんだ」
「抱きたい、です、けど、貴方の中に、ロルフという男がいるのがいや、です、だから、まだ」
「なるほどね…」

 さて、困ったな、とつい彼の悲しそうな横顔を見て嬉しくもなってしまうのはいけないことだろうという自覚はあった。確かに彼に、ロルフの事は話した。彼も真剣に聞いてくれたし、別れた今でも好きだとも。
 彼の考えていることは、全てではないが理解できる、わかる気がした。
 彼と付き合う今となっては、ロルフは過去の男にはなったがそれでもガエルからしてみれば、好きな人の周りをちらつく顔も知らない男なのだから気分は良くないだろうし、ガエルと俺が出会うまで、俺の時間の多くを占めていたと思うロルフに対して嫉妬のようなものを抱いているのだろうということもわかる。
 俺だって、彼の傍にずっといて、彼がベッドの中でも話題に出すロトアにそんなことを思った。ロルフとロトアは恋人関係にはなかったが、絶対に埋められない時間を共にした相手に抱いてしまうどうしようもない嫉妬は俺もしたことがある。
 ガエルはそれを受け止めることが出来ないのだろうな、と思ってしまう。
 ただそうやって、自分に対して熱心に思いを抱いてくれているという事も汲めてしまうから困るのだ。

「謝らなくていいんだよ、ガエル」

 きっちりセットされた髪をなでると、彼はふっと顔を赤くする。

「でも」
「ガエルが俺を夢中にさせてくれればいい話じゃないか」
「え」
「そうだろ?」

 視線がさまよって、それから胸元に端末を抱き込むようにして彼は小さく息をのむ。

「でも、私、その」
「自信がない?」

 ぎゅ、ときつく腕に力が入ったらしいのを視界に入れてつい笑ってしまう。言葉の端々から。彼が自分に対して自信がないのかもしれないというのはわかってはいた。それでも好きだという気持ちを偽ることなくずっとため込んでいるらしいことも。

「そうだな、まずは」

 ぐっと、彼が抱えていた端末を無理やり奪い取る。奪ってそれから壊さないようにテーブルに置くまでを彼は律儀に視線で追いかけていた。

「俺といるときは、端末操作はやめるとこからにしようか」
「ぇ、あ」
「悪いんだけど、俺は一緒にいるだけじゃ満足できないんだ。恋人と一緒に居れるならハグだってしたいし、キスだってしたいよ、もちろんその先も、だけど」

 形のいい目が見開かれて、また真っ赤になる。ガエルは結構純情なのかなあと思って笑いそうになっていたところに、彼が震えながら唇を開く。

「いい、ンですか、キス、しても」
「え?」

 今まで彼が「え?」と言っていたが今度はこっちが言う番らしい。

「オルソ、さんに、キスしても、いい、んですか」
「いい、よ?恋人なんだから」
「恋人、そ、うです、よね」

 いいんです、よね、と自分に言い聞かせるようにつぶやいた彼を見て、ああまずそこからだったのかと思ってしまう。

「ガエルは俺の恋人なんだから、いつだってしていいんだよ」

 そう囁いてやるだけで、ぶわりと顔を赤らめるのさえ愛しいと思ってしまう。ああ本当に、そんなことから戸惑っていたのかと納得すれば、彼が何もしてこなかったのもうなずける。キスをしていいのかさえ悩んでいたとは、思いもしない。

「じゃ、あ、あの、私、からしていいですか」
「いいよ」

 伺いながらこちらを見てくる彼に、何度笑みがこぼれたか知れない。年が離れているせいもあるがそれにしたって新しい恋人はずいぶん臆病なんだなと思ってしまう。
 温かい手が頬に添えられたのを感じて素直に目を閉じると、動揺した気配をさっして笑ってしまう。

「好きなタイミングでしていいよ」
「は、い」

 そうして暫くしてやっと、重ねられた唇は初々しく、小さく震えていた。
× × × × × × ×
読み返しながらやっぱり熊のことむっちゃえっちだなっておもったんだ

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