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ただ、返したいものがある

2020/07/20 02:10
CP無し
 青い鳥が羽ばたいて消えた夢を見た。それは綺麗な青い羽だった。指先でそっと触れても…都合のいい夢だったから、それは逃げなかったし、聞いたことのない音で鳴いた。開けた窓から日が優しく差し込んでいて、薄手の布が揺れていた。
 床は酷く汚れていて、見れたものではなかったが、その景色だけが酷く優しく美しいものに見えた。椅子に力なく座ったままの細い体が年齢と釣り合っていない事はしっていた。扉を開けることもやっとで…ああ、扉、扉を開けてここから出て行かないと、あの人が呼んでいる声がする。そんなことを考えながら椅子から立ちあがる。
 酷い部屋だ。簡素過ぎて、寝る為だけの部屋には、ボロボロのベッドがひとつと、申し訳程度の机に椅子。本はお客がくれた本だった。痛みと気持ちの悪さを忘れる為に使っていただけの、あれにもう未練がない、と、ぼんやりと思いながら、扉を開けた時、鳥が鳴いて、飛んで行く。
扉の向こうにいる人を知っている。あの人がそこに必ず居ると信じられる。あの人は此処から、この酷い部屋から自分を連れ出してくれた人で、信じられる大人だ。ちょっと、頼りないけど、優しい人だ。
 あの日と同じ、手が差し伸べられる。俺はそれを何の疑いもなくとることが出来る。そうして手を引かれる先が優しいことも知っている。この大人は、自分に暴力を決して振るわない人だと知っている。

「       」

 あの人の名前を呼んだような気がして、意識が戻った。重い瞼を上げれば、見知った天井がある。枕もとで端末が呼び出し音を小さくならしていて、ダルイ、と思いながら手に取る。

「なに」
「お夕飯だよって、お兄ちゃんが」
「ああそう」
「食後のケーキもあるよ」
「ケーキで人を釣るな」

 気づけば随分時間がたったし、この屋敷も煩くなった。あの人はずっと喧しいが。この娘もあの人が手を差し伸べた一人だが、自分より随分図太くて逞しい。これで変な言葉を覚えなければ一番いいが、あの人とゲームをしたり、遊んでいるうちに変な言葉を覚えていくらしく、たまったもんじゃない。

「ご飯の後はホライゾンさんの積みゲー消化大会だよ」
「またなんか買ったのか、」
「買ったんだって」

 言っちゃダメでしょ、と遠くであの人の声がしてるのに吹き出しそうになってくる。

「増やすなって言っとけ」

 のそりと起き上がり、夕飯を摂りに行く。
 飯を食うのも、随分、普通になってきた。昔はあんなに苦労していたのに。これもあの人が教えてくれたことだった。
 重かった扉も今は難なく開けることが出来る。思った以上に、まだ生きている。

 青い鳥が羽ばたいて消える夢を見た。どこか遠い星では幸運の鳥と言うらしい。幸運の鳥、なら、俺のところにはもう居る。消える事はないし、色々物知りで、気弱だが、決して悪いものじゃない。
幼い頃、あの人に出会って、もう少し生きていたい。もう少し、と願い続けて随分な年になった。
 あの人にまだ返しきれないものがある。まだもう少し、生きていようと思う。

◇ ◆
まさつぐさんには「青い鳥が羽ばたいて消えた」で始まり、「もう少し生きていようと思う」で終わる物語を書いて欲しいです。できれば10ツイート(1400字程度)でお願いします。
#書き出しと終わり
https://shindanmaker.com/801664

診断メーカーさんのお題から°˖☆◝(⁰▿⁰)◜☆˖°

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