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【ハレィンとファゼット】あなたと私、一緒のところは

2020/04/04 04:37
CP無し
 人の纏う星々の声が聞こえる。大気の星の声が聞こえる、というのが私に備わっている、視力の代わりにある能力で、それはつまり、魔術という能力に於いての、精霊や魔素の声、霊体というべきなのか視認できない、通常は聞くことが出来ないそれらの声をよく聞き取れるということなのだ、と、レヴェンデル様と、レイフ様が教えてくれた。
 背丈はこのくらいなのだろう、ということは声の位置から把握できるようになったし、この声をあえて聞かないようにと制御する力も訓練でついた。生きている者に纏う声しか聴きとれないので、機械類はやはり誰かに手をかしてもらわないとならないのが困るけど。移動するのには目が見えていないとは思えないと、ギーさんから言われたほど自然にできるらしかった。

「なにしてんの」

 低くて男性的な、それから、高い位置から落ちて来た声。

「ファゼットさん、温かい飲み物が欲しくて」
「あっそ、何飲むの」
「ホットミルクでいいかな、と」
「…座ってれば?」

 静かに食器が擦れ合う音と、ファゼットさんが動く気配に甘えて、椅子に腰かける。ファゼットさんは何処か薄暗い声のする人だけど、それ以上に暖かいものの声がする。レヴェンデル様を尊敬しているのだとシリウスさんから伺ってから、その暖かい気遣いがレヴェンデル様と近しい事に気が付いた。
 あまり私とはお話をされない方だけど、こうして放っておくでもなく、自分がやるからというでもなく、さっくりと、大きな選択範囲を設けて言葉をかけてくれる。と、感じているけれど、実際どんな気持ちで声をかけて下さっているのかはわからない。

「ファゼットさんは、今起きられましたか?」
「別に、動く気になっただけ」
「左様でしたか……。今は、夜ですか?」
「そうだな、夜だよ」

 部屋にこもっていると、朝も夜も星の声が変わるので教えてくれるけれど、どのくらいの時間かまではわからない。

「まだ夜中だ、飲んだら寝ろよ」
「はい、ありがとうございます、お気遣い嬉しいです」
「いや、お前が風邪ひくと面倒なだけだから」
「ふふ、そうですか、そうならないようにします」
「そうしてくれ」

 斜め向かいに、ファゼットさんが腰かけた気配だけがある。彼も何か飲んでいるのかもしれない。

「ファゼットさんは、」
「あ?」
「レヴェンデル様と同じくらい心配性なんですね」

 突き放すような言葉を選ぶが、声音と、纏う声のすべてが柔らかな方だと思う。

「おっさんの方が心配性だから」
「………そうですね、そこが、私好きです」
「ふぅん、あっそ」

 興味のない、といった言葉の選びなのに、酷く柔らかになっていく声がなんとも素直で、笑みがこぼれていく。

「ファゼットさんも、お優しいので好きです」
「俺は優しくねえっての、なにいってんだ」
「ふふふ、では、そういう事に致します」

 優しい人ばかりに囲まれて、これほど許されて、私も、もしかすればファゼットさんも「昔」より変化があったのか、とそんなささやかな一緒を見つけて嬉しくなってしまう。

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