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【ハレィン】いつか貴方のお役に立てれば

2020/04/04 04:33
CP無し
「だーーからーーーー」

 少しばかり苛立っているようなファゼットさんの声を聞いて、見えるわけではないがその声の方向に顔を向けた。気配としては、ファゼットさんと、レヴェンデル様がいらっしゃるのだろうと思う。まだこの屋敷に来て日は浅いが、それでも、二人が仲がいいのだということはわかる。
 この屋敷の空気自体が優しいのもあるが。

「そーじゃなくって、あんた、ほんともーーー」

 恐らく、端末を通して会話しているのだろう。自室にこもる事が多いレヴェンデル様の声は端末からは聞き取れないが、ファゼットさん曰くお仕事と趣味でお忙しいのだ、とよく聞く。
 ファゼットさんの声は低くて優しい音をしている。どのような外見かはわからないが、上背が恐らくレヴェンデル様と同じくらいあって、時々香る薬の匂いと、毛布をかけるおとと、それからため息交じりにレヴェンデル様とやりとりする楽しい声の御方だ。あまり私とはお話されないけれど。

「…ああ、ハレィン、なんでもねえよ、大丈夫」

 こうしてこちらを気にかけてお声がけくださる優しい御方。

「レヴェンデル様がどうかされましたか?」
「あー、や、仕事さぼってたから」
「そうなのですか?」

 レヴェンデル様と直接話すことがほとんどない。大概、シリウスさんや、ファゼットさんを経由しての会話が多い、のは、レヴェンデル様が恥ずかしがっているのだなとは察している。星の声が、そう教えてくれる。正確ではないけれど。
 ただレヴェンデル様が自ら言わないのに、私が指摘してもと思って、知らないふりをさせて頂いている。

「レヴェンデル様、お仕事お疲れ様です」
「ほら、ほら、ハレィンが応援してんぞ、がんばれ」

 何事かを端末の向こうでレヴェンデル様が話している声が微かに聞こえて、そこにいなくとも微笑みかけてしまう。恥ずかしがって、なかなかお話は出来ないけれど、私のこの声を素敵だと仰って下さった、素敵なお方。

「がーんばれ、ほら、おっさん、がーんばれ」
「がーんばれ」

 いつか私もレヴェンデル様のお役に立てれば、と思いながら、ファゼットさんの真似をすると、何やら大きな音が端末からしていた。

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