短文詰め合わせ


「ね、ねえねえ、イオちゃん」

 低く、気弱そうな顔に似合わないしっかりした声をした養父に呼ばれ、道具の手入れをしていたのをぴたりと止めて見上げた。
 胸元の青い薔薇を模した飾りが、室内の明かりを受けて光っている。

「あ、あの、イオちゃんに吾輩お洋服かったんだけどね」
「お洋服?」
「う、うん!」

 はい、と背中に隠していたらしい包みは綺麗にラッピングされている。開けていいの?と受け取りながら聞くと、うんと嬉しそうな声と一緒にホライゾンが頷く。
包みを止めてあるシールを、イオは短く切った爪でカリカリとひっかいて、包装紙が破けないようにゆっくり時間をかけた。
 今は亡き母に、貴女は高貴な血筋のレディなんだから、どんな仕事についても所作はきちんとしないといけませんよ、と教えられた名残だ。

「イオちゃん丁寧に開けるねえ」

 感心したようにホライゾンがそうつぶやくのに対して、こくんと首を縦に振る。

「うん、お母さんがどんな仕事でも心は立派なレディになるのよって言ってたから、ビリビリしたら綺麗に包んでくれた人に悪いでしょ?」
「めっちゃいい子過ぎる問題…」
「問題??」
「ううん、吾輩の話」

 ホライゾンはたまに妙なことを口走るときがある、というのは、戸籍の関係上兄にあたることになっているシリウスから聞いていた。曰く「たまに一人ではしゃいだり、妙な単語を言うけど、あれは旦那さんの癖みたいなものだから」と。
 確かに、イオにはわかりかねる言葉の単語が多いのだが、いつもホライゾンと一緒にいるファゼットには理解が出来るらしく、ふうんだのへえだの言っているのは聞いた。
 何回か口走っていたロリ、というのは、ファゼット曰く、イオ自身よりもいくらか小さい子を指す言葉らしいが、ホライゾンにとってはお前も大分小さいからロリ枠なんだろ、と。
 小さい子が好きなのかとホライゾンに尋ねたらえらく動揺した後「す、すきだけど、ノータッチ精神だからね、犯罪はしないからね」と言われた(意味はよくわからないけど)。
 ぺりぺりと開け終わった包装紙から出てきたのは丈夫そうな厚手の生地でできたタートルネックと、ジャケットだった。

「あんまりイオちゃん可愛い服、興味ないのかなって思って、こういう服だったらお仕事に着ていけるよね」
「ありがとう」

 ホライゾンに引き取られてから、暫く彼は、服を買ってあげる!と楽しそうに自分を呼んでは雑誌を見せてくれた。
 ただ、ホライゾンが可愛いのじゃないかと自分に進める服は、当たり前だったがスカートだのワンピースだのだった。フリフリだ、リボンだレースだ、母と一緒に逞しく生活してきた自身にとってあまりにも馴染みが無さ過ぎたそのピンクや白や可愛い色のひらひらたちは、どうにも、好き、可愛いという印象を持てず、漠然と、「機械の間に挟まったら事故になりそう」と思ってしまい、ずっと首を左右に振っていた。
 そのおかげだったのか、ホライゾンは可愛い服がたくさん載った雑誌よりは、実用的だったり安全そうな服がたくさん載ったものを選んでくれるようになった。
 どうして自分なんか引き取ったのか、と最初は不思議だったし、可愛いものを進められた時は嫌だと思ったが、ホライゾン、というこの人は自分が嫌だというと聞きいれてくれるし、自分がしたい仕事も、「怪我だけはしないように」とただそれだけ言ってあっさり働くことを許してくれた。偏屈そうなおっさんだ、と思っていたがどうやらそうでもなかったようだと直ぐ認識を改めた。
2/8ページ