短文詰め合わせ

 我ながら、こんな奴にこんなに長い事付き合っているだなんてつくづく悪趣味だなあ、と目の前の男をながめながらしみじみと思った。
 すらりと長い脚を投げ出してソファーにだらしなく座っている男は、先ほどから端末を操作して唇を尖らせ、ああでもない、こうでもない、と指をスライドさせている。今日つけているのは黒い革製の手袋だが反応するように指先に何か細工がしてあるのだろう、難なく操作をしていきながら男は癖のある紫の髪を揺らしてうんうん唸ってばかりだ。

「ねえ、これ可愛い?」

 くるんと端末をひっくり返し、こちらに画面を見せる。拡大表示されている画像は、恐らく最近養子に迎えたばかりの可愛い嬢ちゃんに着せたいのだろう白を基調にしたフリルのあしらわれているドレスだった。

「ひらひらは嫌いだって言ってただろ、却下だ、悪趣味か」
「うぅ趣味はいいと思うよ吾輩」
「それシリウスの時も可愛いって言ってただろ」
「うう、だって似合うと思ったんだもん」
「もんいうなおっさん」

 しょんぼりと耳が少し下がった後、また端末を操作しだす男を見て、素直な所は可愛げがあるんだが、と、おっさんに対して思う自分こそ悪趣味だ。普通おっさんに対して可愛いだなんて思わない方がいいのかもしれないが、昔からこのおっさんは可愛いと思ってしまう。

「ファゼット君だっておっさんなんだけど」
「そーだったなおじいちゃん」
「待っておじいちゃんって言わないで」
「おじいちゃんだろ」

 200歳過ぎてるじゃねえかと言いかけて止める。たぶん云うと「まだ200年だもん」とかいって喚きだすのだ、こいつは。

「まだ未婚だもん!!!未婚の父だもん!!」
「驚く程心に響かないワード過ぎる」
「未亡人の方が萌えるからね…しょうがないよね」
「確かに」

 それでも楽しそうに、娘と息子の服を選んでどうかな、と聞いてくる時間は嫌いではない。

「未亡人にしろ未婚にしろ二児の父親になってんだけど」
「へへへ」
「へへへ、じゃねえよ」

 足癖が悪いとシリウスに言われるが、つま先で相手のすねを小突く。勿論痛くないようにしている。

「あとはシリウス君が素敵な恋人でも見つけてくれたら嬉しいんだけどなあ」
「あー………」

 正直こんな家庭環境で育って、恋人を作ろうという気があの男に芽生えるもんだろうかと思ってしまう。なにせ、この、ホライゾンが徹底的なというか、実の親以上に愛情を注ぐような男だ。シリウスはもともと、生みの親に高値で商人に売り払われた経緯を持っている。出身の惑星では白い髪に赤い瞳、まあ、赤い瞳に限らず色素が薄い者は忌み子として生まれてすぐ始末されることが多い。「生きたまま」売られているということでかなり高値で競り落とした商品であり、ホライゾン達学者が興味を示した「サンプル体」でもあった。それらを差し置いてもホライゾンというこの変わり者はシリウスを我が子のように育てたし、いや、我が子と言うよりうっかりすると孫感覚なのかもしれないが。とにかく人一倍の愛情はひたむきに向けていた。
 シリウス自身、年頃になって自分の生い立ちやここへ来た経緯を知っても(ホライゾンは教えたがらなかったが俺が勝手に判断して教えたのだが)、この男からのめいっぱいの愛情表現を知っていたが故にグレることもなく、素直に育った結果としてかなり生真面目なやつになった。ちょっとぐらい反抗的になればいいと思って、「俺が買ってやった」と言ったが、それさえ感謝していますというような、真面目というのかなんというのか、そんな性格だ。

「手がかかる父親のことで手いっぱいで目がいってないんじゃねえの」
「えっ?」
「手がかかるから、父親が」
「大事な事だから二回いったの??!!」

 絶対そうだ。ホライゾンの世話をしなくてはと思ってるに違いないのだあの男は。まだ、最近加わったばかりのイオの方が健全だ。お父さんと言うよりは、おじちゃんとよんでたりするし。

「もーちょっとパパがしっかりすればいいのにぃー」
「ウッ」

 めそ、と耳が下がったのと、そのあとすぐ「ねえこれは可愛いと思わない!!??」と画面を見せてきたのに、時間差がなかった。前向き過ぎるだろ、と言うより先に却下だといった声とええ、という音が部屋に落ちた。

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