君の隣でなにしよう?
「馬場 くん」
「うおっ」
脇腹を不意にずぶっ、と、指でつつかれた。いや、つつかれたというよりはなんかもう肋骨と肋骨の間に入って来た。すごい、地味にとても痛かった。初めて知った。指って、わりといたいんだ。
「十条 さん、びっくりした、おやめになって」
「私もびっくりした、何故なら思いのほか指が深く入ってしまったからです、ごめんよ馬場くん」
少しふっくらした手をぐーとぱーで交互に握ったり開いたりしながらこっちを見てくるのは同じクラスの十条杏子 さんだった。短く切った髪と、大きな目と、他の女の子たちよりいくらかふっくらした体格の彼女は、俺が言えたことじゃないのだがあまり表情が変わらない人だ。
今も傍から見たらほぼ表情が変わらないデカイ俺と小柄な彼女が不可思議なやりとりをしているように見えるんだろうと思う。いや実際なんで脇腹をつつかれたのか俺にもわからない。でも彼女とは1年の頃からの付き合いではあるのでこのくらいは別にいいかと思う。
「馬場くん、もしや放課後暇?」
「え?なに、もしやって……、まあ暇と言えば暇、」
「暇じゃないと言えば暇じゃない……、と」
「用件によっては暇ではないと回答を覆す可能性があることをご了承していただいたうえでどうぞ」
「よしきた、用件を言おう」
うん、と頷いて彼女がぽんぽん、とスカートのポケットを上からはたいて、そして、ポケットから取り出されたのは割引券だった。
「見て、いま増やした」
「嘘をおっしゃい十条さん」
「むむむ、流石に見抜かれたか……、それで本題だけどドーナツを食べに行かない?」
「ドーナツですか…ははあ……え?俺?」
確か駅の近くにあるドーナツ専門の店の割引券だな、と端の方にプリントされたロゴを見て思う。
しかし俺を誘って差支えないんだろうか。というか俺でいいのだろうか。女子と二人で行うべき会話が思いつかない。まあ、十条さんはそれほど気を使わなくていい女子、ではあるけど、女子には変わりがないので会話の内容くらいは気を付けたいし。
「大門 くんも誘っています」
「ああ、、大門が来るなら……行こうかな」
友人の大門の名前を上げられてしまうと「知ってる奴がいるならいいか」という気分になるのは不思議だ。
「外堀から埋めて正解だった」
「じゃあ三人で行くの?」
「滝澤 ちゃんがくる」
「タキザワ……あぁ……彼女…え、俺話したことない」
「私があるから大丈夫」
「えー……わかった、わかったよ」
滝澤みよ子さんも同じクラスの女子なのだが、彼女はとても小柄な人だ。大きな三つ編みとくりくりとした大きな目と、思いのほか弾丸のように動き回るアクティブな子、という認識くらいしか持っていなくて実際の人柄はよくわからない。
よく中条 さんや村川 さんといたりするのはみているけど。十条さんとも仲がいいんだなと初めて知る。
「放課後、待ってるぞ」
「決闘でも行くのか十条さん」
「ドーナツが私を呼んでいるのだ」
「呼ばれてしまってはしょうがない……」
うん、と俺が頷くと、彼女もまた、うんうんと頷き返す。
じゃあ放課後に、と約束をして、全ての授業が終わったあとからが約束の時間にはなるわけなのだが、真っ先に昇降口に座って待っていたのが十条さんではなく、滝澤さんだったので少したじろぐ。
「タキザワサン」
ちょっと同じクラスとはいえほぼほぼ会話もない女子に話しかけるのはかなりの勇気がいる。もう明日分くらいまでの勇気を使い果たしてしまった。
「馬場くん!…………だ、よね?そう、だったよね?」
ぱっと彼女が笑うと八重歯が見えた。でもそのあとすぐに不安そうに三つ編みをぎゅっと握っておどおどと見上げてくる。おお、初対面から怖がられてしまった、とこっちも挙動不審になってしまう。大門も十条さんも委員会の呼び出しをくらってしまってまだ、もう少ししないと来ない。
「そう、そうです」
「あ、良かった……あんこちゃんは?」
十条さん、名前が杏子、だからそういうあだ名なのかと想像しつつ、委員会、と手短に伝えると、きゅっと吊り上がっていた滝澤さんの眉が、ハの字になる。
「委員会なの……そ、そうなの……」
「大変申し訳ない……」
「そ、そ、そうだよ!私馬場くんと話したことないんだから!!」
奇遇だね俺もだよとは冗談でもいえないくらい不安そうにしている。こういう時優しい声の大門が居ればなあとつくづく思ってしまう。
「あの、あの、ば、馬場くん」
「はい」
「あの、あの、き、気を付ける、けどね、あの、嫌な事言っちゃったらごめんね、あの、わたし、すぐ喋っちゃう、から」
いつも元気いっぱいに動いていた滝澤さんしか目に飛び込んできていなかったので、小さい体をもっと縮こまらせて困り果てている彼女はなんとも新鮮だし、あ、困らせないように俺がしっかりしないとと思ってしまう。
「大丈夫、平気」
「へーきとかだいじょーぶとかじゃないの!も、もう、」
「……ごめん、話題とかあればいいんだろうけど」
「わ、わ、わだい、え、じゃ、じゃあ私何か話す???」
「無理はいけない」
「え、ええー、じゃ、じゃあ、だま、っちゃうけど?」
「良いよ」
無理して疲れさせてしまうよりはその方が良い。俺はたいして面白い返しが出来ないし。
「良いの!?」
「え、いいよ」
「……馬場くんあんこちゃんみたいね」
「ああ、類友なんで」
「えーー???そぉかなあ」
「見えないかなあ」
段々と声が弾んできた滝澤さんにホッとしながら、会話を少しだけ続けていると大門と十条さんが登場してきて、もう俺の仕事終わったな、と思ったけど、そういえばドーナツを食べに行くんだったと思い出した。
ほんの少しだけ、なんだか滝澤さんに懐かれたような気がした。
【きっとお茶目さは通じない】
「うおっ」
脇腹を不意にずぶっ、と、指でつつかれた。いや、つつかれたというよりはなんかもう肋骨と肋骨の間に入って来た。すごい、地味にとても痛かった。初めて知った。指って、わりといたいんだ。
「
「私もびっくりした、何故なら思いのほか指が深く入ってしまったからです、ごめんよ馬場くん」
少しふっくらした手をぐーとぱーで交互に握ったり開いたりしながらこっちを見てくるのは同じクラスの
今も傍から見たらほぼ表情が変わらないデカイ俺と小柄な彼女が不可思議なやりとりをしているように見えるんだろうと思う。いや実際なんで脇腹をつつかれたのか俺にもわからない。でも彼女とは1年の頃からの付き合いではあるのでこのくらいは別にいいかと思う。
「馬場くん、もしや放課後暇?」
「え?なに、もしやって……、まあ暇と言えば暇、」
「暇じゃないと言えば暇じゃない……、と」
「用件によっては暇ではないと回答を覆す可能性があることをご了承していただいたうえでどうぞ」
「よしきた、用件を言おう」
うん、と頷いて彼女がぽんぽん、とスカートのポケットを上からはたいて、そして、ポケットから取り出されたのは割引券だった。
「見て、いま増やした」
「嘘をおっしゃい十条さん」
「むむむ、流石に見抜かれたか……、それで本題だけどドーナツを食べに行かない?」
「ドーナツですか…ははあ……え?俺?」
確か駅の近くにあるドーナツ専門の店の割引券だな、と端の方にプリントされたロゴを見て思う。
しかし俺を誘って差支えないんだろうか。というか俺でいいのだろうか。女子と二人で行うべき会話が思いつかない。まあ、十条さんはそれほど気を使わなくていい女子、ではあるけど、女子には変わりがないので会話の内容くらいは気を付けたいし。
「
「ああ、、大門が来るなら……行こうかな」
友人の大門の名前を上げられてしまうと「知ってる奴がいるならいいか」という気分になるのは不思議だ。
「外堀から埋めて正解だった」
「じゃあ三人で行くの?」
「
「タキザワ……あぁ……彼女…え、俺話したことない」
「私があるから大丈夫」
「えー……わかった、わかったよ」
滝澤みよ子さんも同じクラスの女子なのだが、彼女はとても小柄な人だ。大きな三つ編みとくりくりとした大きな目と、思いのほか弾丸のように動き回るアクティブな子、という認識くらいしか持っていなくて実際の人柄はよくわからない。
よく
「放課後、待ってるぞ」
「決闘でも行くのか十条さん」
「ドーナツが私を呼んでいるのだ」
「呼ばれてしまってはしょうがない……」
うん、と俺が頷くと、彼女もまた、うんうんと頷き返す。
じゃあ放課後に、と約束をして、全ての授業が終わったあとからが約束の時間にはなるわけなのだが、真っ先に昇降口に座って待っていたのが十条さんではなく、滝澤さんだったので少したじろぐ。
「タキザワサン」
ちょっと同じクラスとはいえほぼほぼ会話もない女子に話しかけるのはかなりの勇気がいる。もう明日分くらいまでの勇気を使い果たしてしまった。
「馬場くん!…………だ、よね?そう、だったよね?」
ぱっと彼女が笑うと八重歯が見えた。でもそのあとすぐに不安そうに三つ編みをぎゅっと握っておどおどと見上げてくる。おお、初対面から怖がられてしまった、とこっちも挙動不審になってしまう。大門も十条さんも委員会の呼び出しをくらってしまってまだ、もう少ししないと来ない。
「そう、そうです」
「あ、良かった……あんこちゃんは?」
十条さん、名前が杏子、だからそういうあだ名なのかと想像しつつ、委員会、と手短に伝えると、きゅっと吊り上がっていた滝澤さんの眉が、ハの字になる。
「委員会なの……そ、そうなの……」
「大変申し訳ない……」
「そ、そ、そうだよ!私馬場くんと話したことないんだから!!」
奇遇だね俺もだよとは冗談でもいえないくらい不安そうにしている。こういう時優しい声の大門が居ればなあとつくづく思ってしまう。
「あの、あの、ば、馬場くん」
「はい」
「あの、あの、き、気を付ける、けどね、あの、嫌な事言っちゃったらごめんね、あの、わたし、すぐ喋っちゃう、から」
いつも元気いっぱいに動いていた滝澤さんしか目に飛び込んできていなかったので、小さい体をもっと縮こまらせて困り果てている彼女はなんとも新鮮だし、あ、困らせないように俺がしっかりしないとと思ってしまう。
「大丈夫、平気」
「へーきとかだいじょーぶとかじゃないの!も、もう、」
「……ごめん、話題とかあればいいんだろうけど」
「わ、わ、わだい、え、じゃ、じゃあ私何か話す???」
「無理はいけない」
「え、ええー、じゃ、じゃあ、だま、っちゃうけど?」
「良いよ」
無理して疲れさせてしまうよりはその方が良い。俺はたいして面白い返しが出来ないし。
「良いの!?」
「え、いいよ」
「……馬場くんあんこちゃんみたいね」
「ああ、類友なんで」
「えーー???そぉかなあ」
「見えないかなあ」
段々と声が弾んできた滝澤さんにホッとしながら、会話を少しだけ続けていると大門と十条さんが登場してきて、もう俺の仕事終わったな、と思ったけど、そういえばドーナツを食べに行くんだったと思い出した。
ほんの少しだけ、なんだか滝澤さんに懐かれたような気がした。
【きっとお茶目さは通じない】
3/3ページ