君と僕
「ごめん、相席させてもらってもいいかな」
まるで夏の空のように何処までも見えそうな、そんな清々しい声が飛び込んできて緩慢に、行儀が悪いとはわかっていたがフォークで皿の上の飯をつついていた手を止めた。
顔を上げると年は同じくらいだろうか。大きな瞳と、肩にかかるほど伸ばした髪を少しだけ上の方で結っている男と目があう。深く、しかし明るさを残した青の髪と、褐色に近い肌、それから、黒の色彩の中心で爛々と光っている緑の縦に長い楕円の瞳孔が目に入る。何より特徴的なのはその両手足だ。ふさふさとした青い体毛に覆われた手の爪は鋭利で、足は特徴的な曲がり方。後ろへ蹴って飛び上がるのが得意そうな、猫みたいな脚と、ゆらりと動いた長い尻尾。
はあ、珍しい、多分これは惑星マギウスの魔神族ってやつじゃないかな、と思う。何人か入隊しているのを聞いたことがあったが実際見たのは初めてだった。
「おっ、誰かと思ったらユーディルガーじゃん」
「ソゾじゃん、今日も元気そぉでぇ」
その男の後ろから顔をにょきっといった感じで出してきたのは友人のソゾだ。赤茶の髪を後ろで少しゆったり結わえていて、人好きのしそうな笑顔と零れそうに大きな、これまた赤茶がかった瞳は俺とはひとつ違いの年上の筈なのに年下に見える。本人が童顔を気にしているので口には出さないが笑うとますます幼さが際立ってしまう。
「彼はソゾ知り合いか?」
「おー友達なんだよー」
ぱちぱちと大きな目を瞬かせて青い髪の男がソゾに尋ねる。そうねえ友達だねえ、と内心頷きながらソゾを中心に友人幅が広がっていくのは悪い気はしていない。そもそもソゾが選んでつるむ相手の多くは良くも悪くもわかりやすいし、裏がないタイプが多い。
「お前やたら友達いるんだなあ」
はあ、と感心した風な男の尻尾はたらん、と力なく垂れている。
「ユーディルガーも久しぶりだなー、元気かー!」
「元気じゃなかったら飯くってねーーから」
俺の返事を待たずして向かい側に腰かけたソゾは、「ナツも早く座れよ」と男を手招きする。少し考えた後、四人掛けの席、ソゾの隣に腰を押し付けた男は「相席大丈夫だったのか?」とお優しいことに聞いてくれる。
「気にしなくていいよ、ソゾの友達ってなら気兼ねしなくてよさそーだからな」
「えっなにそれ俺の友達ってお前にそんな認識なの」
「良い意味だよ良い意味」
えーそっかーと笑うソゾはまあ、言ってしまえば単純明快な奴なのだが意外に人を見る目を備えているので、事実気兼ねしないやつが多い。最近だとソゾと同じ隊にいるっていうカタシロとミハルっていう奴らと仲良くはなった。カタシロって方は、少しぴりぴりした雰囲気が常にあるけどソゾと喧嘩しているときはそれが無くて、まあ、いい仲良しさんになれるんじゃないかと思ってみていたし、ミハルっていう方は大分小柄な男だったけど、落ち着いているし兄貴肌、って感じがあった。
目の前、のソゾの横に座っている男はなんというか、穏やかそうな顔で、こいつもまたある意味ソゾとは仲良く出来ちゃうだろうと思うのはさっきの細やかな言葉でわかる。ソゾは良い奴だけど言葉が足りない。そこをこの男が補って発言するのを見るに、きちんとソゾの思考は汲み取ってくれているらしかった。
「イスト・ユーディルガー、諜報部隊所属、よろしくぅ」
かつん、と皿を一度フォークで叩いてそう発言すると。男は人好きのしそうな顔でにこっと笑う。ソゾの「破顔」って感じとはまた違う柔和な笑顔だ。
「ナツヒコ・リンドウです。よろしくどうぞ」
「見るにカタシロやミハルと同じって感じだからソゾと同じ実働部隊?」
「そーそー!!!なんだっけ、惑星マギウスの、」
「ああ、俺の種族、猫神(ビョウシン)っていうんだ」
「ビョーシンねぇ、魔神だけじゃなくて色々いるんだなぁ」
「魔神はここの軍部に属す時、今のままじゃア面倒だ、っていうんで星で総括して外ではひとくくりにしてしまおう、って事になってて、実際は色々いるんだよ、ジャジンとかロウシンとか」
「ほぉーん」
多惑星混合型の軍だから、ここには本当に色々な奴がいてみていて飽きない。水生系惑星出身のやつもいればこのリンドウみたいな所謂人型タイプと獣人系で半々みたいなのもいるし、魔術が使える奴使えないやつ、と出来る事に応じて希望の部隊に配置される。
俺は魔術は使えはするけど索敵が得意とかだったりするもんで諜報部隊にいるけど、ソゾは肉弾戦が得意なんで、基本は一線に出て戦闘するとか警備をしている。命を落とした同期生たちもいるけどこうして無事を確かめられると安心するのも事実だ。
「あ、今日はだからこんな食堂混んでるんだぁ?
「そーそー、昨日の夜時間あたりに遠征から帰還したんだよー」
「あらーお疲れぇ二人とも」
「ただいまー!」
「はいはいお帰りぃソゾちゃん」
そういって笑うとリンドウがきょときょとと目を瞬かせている。
「リンドー君も、お疲れぇ、…君もおかえりぃ、のほうが良い?」
「あ、ええと、うん、えっと、ただいま?です」
まだ慣れない感じで頷いているのを見てやっぱ年下かな?と感じる。まあ、会って数分の男におかえりーなんて言われても困るだけか。
「リンドー君いくつぅ?初々しいー」
「20です」
「嘘ぉ…年下じゃん、…ソゾちゃん見習って」
「えっなんで!」
「落ち着いてるわぁ、落ち着きがないソゾちゃんに見習わせたい」
「お、お、おちついてきただろ…ちょっとは」
「ちょこーーーっとな、ちょこーーーっと、こんくらいな」
「微々たるもの過ぎるだろ!もっとあるだろ!」
「ないかなぁ…落ち着いてる子はまず喧嘩しませぇん」
「ぐぅぬぅ…!!」
ふは、と気が抜けた笑い声がしたほうに顔を向けると、リンドウがやっと年相応に笑っているのが目に付く。
「おっ、やっと緊張ほぐれた感じぃ?」
「はっ、あ、すいません、お気遣い…」
「いいよいいよお、敬語いらないから」
「えーっと、じゃあ、うん、ありがとう」
「ごめんなぁソゾの奴巻き込み型だからさぁ、知らないやつと飯食うのも緊張してるよなあ」
「や、そんな、」
「ソゾちゃぁんもっと気配りじょーずになりましょうねぇ」
「なってますぅーーー」
「どぉこが」
ふん、とふんぞり返っているけど相変わらずデリカシーないないしてるんだよなあソゾは、と思ってしまう。リンドウの方がまぁだ落ち着き払ってるって感じがある。
「俺だいたい諜報っていってもデータ整頓とか今んとこそれっぽいことしてねえから、基地内勤務のことが多いし、遠くに派遣ってこともないし、リンドー君暫く見かけるかもねぇ」
「そうなのか」
「らくちんでいいんだよねぇ」
「こいつだらけてるけど滅茶苦茶真面目に仕事してるし面倒見いいから困ったことあったら相談した方いいぞ」
「俺のイメージ固定を打破しないでくれますぅ?このキャラで大概とおってんだけどぉ」
「おぉ、でもリンドウはダチだからさあ、ダチにはほんとのユーディルガー知っててほしいだろ?」
にか、と明るい花が咲き乱れたみたいに屈託なく笑うソゾの一体どこを嫌いになれるんだろうか。大概この笑顔で一発K.O.されてる気がするんだよなあこいつの友人各位ってのは。
「ありがとね、ソゾー」
「お前はいつもそーやって損なとこいこうとすんなよなあ」
「ふふん、だってソゾちゃんは逞しいから帰ってくるだろうけど?明日帰ってこない奴もいるんだからさあ、ダメージ軽減よ、わかるかあ?」
「ナツの事なら俺に任せろ!絶対連れて帰ってきてやるぞー!」
「あらぁ逞しいことでぇ」
くっく、と肩を揺らして笑うと、俺達のやり取りを聞いていたリンドウがこれまたついてこれてないというか、どうしたらいいんだろう、という顔でこっちを見ていた。ほんと、連れて帰ってこいよなあ、こんな若い子、散らすには惜しいよ。
end.
まるで夏の空のように何処までも見えそうな、そんな清々しい声が飛び込んできて緩慢に、行儀が悪いとはわかっていたがフォークで皿の上の飯をつついていた手を止めた。
顔を上げると年は同じくらいだろうか。大きな瞳と、肩にかかるほど伸ばした髪を少しだけ上の方で結っている男と目があう。深く、しかし明るさを残した青の髪と、褐色に近い肌、それから、黒の色彩の中心で爛々と光っている緑の縦に長い楕円の瞳孔が目に入る。何より特徴的なのはその両手足だ。ふさふさとした青い体毛に覆われた手の爪は鋭利で、足は特徴的な曲がり方。後ろへ蹴って飛び上がるのが得意そうな、猫みたいな脚と、ゆらりと動いた長い尻尾。
はあ、珍しい、多分これは惑星マギウスの魔神族ってやつじゃないかな、と思う。何人か入隊しているのを聞いたことがあったが実際見たのは初めてだった。
「おっ、誰かと思ったらユーディルガーじゃん」
「ソゾじゃん、今日も元気そぉでぇ」
その男の後ろから顔をにょきっといった感じで出してきたのは友人のソゾだ。赤茶の髪を後ろで少しゆったり結わえていて、人好きのしそうな笑顔と零れそうに大きな、これまた赤茶がかった瞳は俺とはひとつ違いの年上の筈なのに年下に見える。本人が童顔を気にしているので口には出さないが笑うとますます幼さが際立ってしまう。
「彼はソゾ知り合いか?」
「おー友達なんだよー」
ぱちぱちと大きな目を瞬かせて青い髪の男がソゾに尋ねる。そうねえ友達だねえ、と内心頷きながらソゾを中心に友人幅が広がっていくのは悪い気はしていない。そもそもソゾが選んでつるむ相手の多くは良くも悪くもわかりやすいし、裏がないタイプが多い。
「お前やたら友達いるんだなあ」
はあ、と感心した風な男の尻尾はたらん、と力なく垂れている。
「ユーディルガーも久しぶりだなー、元気かー!」
「元気じゃなかったら飯くってねーーから」
俺の返事を待たずして向かい側に腰かけたソゾは、「ナツも早く座れよ」と男を手招きする。少し考えた後、四人掛けの席、ソゾの隣に腰を押し付けた男は「相席大丈夫だったのか?」とお優しいことに聞いてくれる。
「気にしなくていいよ、ソゾの友達ってなら気兼ねしなくてよさそーだからな」
「えっなにそれ俺の友達ってお前にそんな認識なの」
「良い意味だよ良い意味」
えーそっかーと笑うソゾはまあ、言ってしまえば単純明快な奴なのだが意外に人を見る目を備えているので、事実気兼ねしないやつが多い。最近だとソゾと同じ隊にいるっていうカタシロとミハルっていう奴らと仲良くはなった。カタシロって方は、少しぴりぴりした雰囲気が常にあるけどソゾと喧嘩しているときはそれが無くて、まあ、いい仲良しさんになれるんじゃないかと思ってみていたし、ミハルっていう方は大分小柄な男だったけど、落ち着いているし兄貴肌、って感じがあった。
目の前、のソゾの横に座っている男はなんというか、穏やかそうな顔で、こいつもまたある意味ソゾとは仲良く出来ちゃうだろうと思うのはさっきの細やかな言葉でわかる。ソゾは良い奴だけど言葉が足りない。そこをこの男が補って発言するのを見るに、きちんとソゾの思考は汲み取ってくれているらしかった。
「イスト・ユーディルガー、諜報部隊所属、よろしくぅ」
かつん、と皿を一度フォークで叩いてそう発言すると。男は人好きのしそうな顔でにこっと笑う。ソゾの「破顔」って感じとはまた違う柔和な笑顔だ。
「ナツヒコ・リンドウです。よろしくどうぞ」
「見るにカタシロやミハルと同じって感じだからソゾと同じ実働部隊?」
「そーそー!!!なんだっけ、惑星マギウスの、」
「ああ、俺の種族、猫神(ビョウシン)っていうんだ」
「ビョーシンねぇ、魔神だけじゃなくて色々いるんだなぁ」
「魔神はここの軍部に属す時、今のままじゃア面倒だ、っていうんで星で総括して外ではひとくくりにしてしまおう、って事になってて、実際は色々いるんだよ、ジャジンとかロウシンとか」
「ほぉーん」
多惑星混合型の軍だから、ここには本当に色々な奴がいてみていて飽きない。水生系惑星出身のやつもいればこのリンドウみたいな所謂人型タイプと獣人系で半々みたいなのもいるし、魔術が使える奴使えないやつ、と出来る事に応じて希望の部隊に配置される。
俺は魔術は使えはするけど索敵が得意とかだったりするもんで諜報部隊にいるけど、ソゾは肉弾戦が得意なんで、基本は一線に出て戦闘するとか警備をしている。命を落とした同期生たちもいるけどこうして無事を確かめられると安心するのも事実だ。
「あ、今日はだからこんな食堂混んでるんだぁ?
「そーそー、昨日の夜時間あたりに遠征から帰還したんだよー」
「あらーお疲れぇ二人とも」
「ただいまー!」
「はいはいお帰りぃソゾちゃん」
そういって笑うとリンドウがきょときょとと目を瞬かせている。
「リンドー君も、お疲れぇ、…君もおかえりぃ、のほうが良い?」
「あ、ええと、うん、えっと、ただいま?です」
まだ慣れない感じで頷いているのを見てやっぱ年下かな?と感じる。まあ、会って数分の男におかえりーなんて言われても困るだけか。
「リンドー君いくつぅ?初々しいー」
「20です」
「嘘ぉ…年下じゃん、…ソゾちゃん見習って」
「えっなんで!」
「落ち着いてるわぁ、落ち着きがないソゾちゃんに見習わせたい」
「お、お、おちついてきただろ…ちょっとは」
「ちょこーーーっとな、ちょこーーーっと、こんくらいな」
「微々たるもの過ぎるだろ!もっとあるだろ!」
「ないかなぁ…落ち着いてる子はまず喧嘩しませぇん」
「ぐぅぬぅ…!!」
ふは、と気が抜けた笑い声がしたほうに顔を向けると、リンドウがやっと年相応に笑っているのが目に付く。
「おっ、やっと緊張ほぐれた感じぃ?」
「はっ、あ、すいません、お気遣い…」
「いいよいいよお、敬語いらないから」
「えーっと、じゃあ、うん、ありがとう」
「ごめんなぁソゾの奴巻き込み型だからさぁ、知らないやつと飯食うのも緊張してるよなあ」
「や、そんな、」
「ソゾちゃぁんもっと気配りじょーずになりましょうねぇ」
「なってますぅーーー」
「どぉこが」
ふん、とふんぞり返っているけど相変わらずデリカシーないないしてるんだよなあソゾは、と思ってしまう。リンドウの方がまぁだ落ち着き払ってるって感じがある。
「俺だいたい諜報っていってもデータ整頓とか今んとこそれっぽいことしてねえから、基地内勤務のことが多いし、遠くに派遣ってこともないし、リンドー君暫く見かけるかもねぇ」
「そうなのか」
「らくちんでいいんだよねぇ」
「こいつだらけてるけど滅茶苦茶真面目に仕事してるし面倒見いいから困ったことあったら相談した方いいぞ」
「俺のイメージ固定を打破しないでくれますぅ?このキャラで大概とおってんだけどぉ」
「おぉ、でもリンドウはダチだからさあ、ダチにはほんとのユーディルガー知っててほしいだろ?」
にか、と明るい花が咲き乱れたみたいに屈託なく笑うソゾの一体どこを嫌いになれるんだろうか。大概この笑顔で一発K.O.されてる気がするんだよなあこいつの友人各位ってのは。
「ありがとね、ソゾー」
「お前はいつもそーやって損なとこいこうとすんなよなあ」
「ふふん、だってソゾちゃんは逞しいから帰ってくるだろうけど?明日帰ってこない奴もいるんだからさあ、ダメージ軽減よ、わかるかあ?」
「ナツの事なら俺に任せろ!絶対連れて帰ってきてやるぞー!」
「あらぁ逞しいことでぇ」
くっく、と肩を揺らして笑うと、俺達のやり取りを聞いていたリンドウがこれまたついてこれてないというか、どうしたらいいんだろう、という顔でこっちを見ていた。ほんと、連れて帰ってこいよなあ、こんな若い子、散らすには惜しいよ。
end.
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