夏
「ノニンさん…」
ちょっといいですか、と聞き取れないほどの声で、しかしローブの裾をつい、と引かれながら、ユルシュル殿が素早く周囲を視線だけで確認したのち発言した。何だろうかと彼女を見るとちらちらと視線があちこちに泳いでいていつも静かにしている彼女らしくはない。
「場所を変えようか」
こくんと頷いたのをみて、少し考えた後、いつもの裏口に向かう。薪割りをしている場所の、近く。つい数日前、ゼルマが大量に運んできた丸太が積んであるその後ろへ回り込む。あまり、女性とこういう所で二人きりは気がひけるのだが、食堂ではなんだか話しづらそうでもあった。
「ええっと」
「……あの、………って」
「…す、すまない、その、聞こえなくて」
普段から小声の彼女がますます声を潜めるので、風に吹かれてさわさわとにぎやかにしている葉の音にも負けてしまっている。もぞもぞと彼女が近くに寄ってきて、両手を筒のようにして顔を寄せてくる。少し気は引けるのだが、そこにそっと耳を寄せる。
「男の人、って、何を貰うと、嬉しいですか」
そそそ、っと再び離れて行った彼女は膝を抱えて座り、俯いたまま足元の草を指先でつまんでいる。
「そう、だな……」
具体的な例をあげたほうがいいんだろうか、と考え込むが、彼女が贈り物をしたい相手と俺の嗜好品は異なるので難しい。難しいのだが、
「釣りの、道具とかどう、かな……」
「釣り…」
「針の近くにつける疑似餌、というか、そういうの…、あとは、そう、だなあ…エプロンとか……実用的なほうが、彼は喜ぶかな、と、思うんだ」
彼女が密やかに好意を寄せてる人を春の終わりに近い頃伺っていた。その時も彼女は相当勇気を出して俺に相談してくれたのだと思うし、同時にそういった対象に俺は入っていないとはっきりわかって安心もした。俺と彼女が一緒にいてもそういったことには発展しないという確かな条件だ。
「エプロン……」
「最近ひとつダメにした、と言ってたんだ」
「……」
「あっても困るものじゃないかなと俺は考えるけど」
「エプロンに、しよう、かな」
「…彼、誕生日なのか?」
一応どこかで誰かが聞いているとも限らないので、名前は出さずに今は厨房で夕食に向けて準備をしているだろう青年を思い描きながら会話をする。問いかけに彼女は小さく首を左右に振る。
「……誕生日、は秋、だから」
「そうか…」
「星祭り、があって、」
そういえば、ユッテが星のお祭りがどうだ、とか言っていたと思い出す。夜だから幼い彼女は出歩くことが出来ないと。
「星、を見る祭りなのか?……その、ごめん、記憶の関係で」
「……星が一番たくさん見える…流れ星もそれなり、に、あって、春の時、みたいに夜店が出たり、するん、ですけど、す、……す…」
「す?」
「好き、な人、に、贈り物とかも、する、から」
「…そうなのか、」
草を毟る、とかいうことはなく、ずっと指先で摘まんだり、葉を撫でている彼女の耳がほんのりと赤い。
「なにか、贈り物したい、な、と、おもって…私の、勝手、なんですけど…」
「それで俺に?」
「………お仕事で、話す男の人、はいるけど、ノニンさん、は、年上で、お兄さん、みたいな感じ、だから」
「お兄さん・・・かな俺…」
「お父さんじゃ…年が近すぎる…し…」
「…そう、そうか…近いか、そうだよな……」
こくりと頷いた彼女はもぞもぞと動き直している。同じ姿勢だとまあ、圧迫されてしびれたりするからなと思いつつあたりを警戒する。念のため。念のためだ。レヴェンデル殿は聞き耳を立てていたとしても乗り込んで聞いてくるなんて、そんなことはしないとは思うが。
「…ノニンさんは、お祭り、は?」
「俺は……どう、しようかな…」
「………レヴェンデルさんとは…出かけない?」
「えっ…?いや、あー…彼女とは確かに色々と話はするけど、そういう感情じゃないんだ……」
「……仲良し、だから、そうなのかなと思ってた…早とちり……ごめんなさい」
「いや、いいんだ…。出かける、っていうことは、春の祭りみたいに、えーっと…そういう方たちで賑わうってことか」
こくりと彼女が首を縦に振る。
「ユルシュル殿からは…ああ、…彼も忙しそうだしな……」
「私の、片思い…なので……いい、です……。贈り物、は、仲良しの人同士でも交換したり、送ったりするから……ずるい、けど、隠れ蓑…」
「なるほど」
もじもじと俯く彼女の、徐々に小さくなっていく声に耳を傾ける。恥ずかしがり屋、というべきか、控えめな彼女は好意の示し方も控えめだと思う。彼は彼で、多分こういう恋愛とか、そういうものはどうも敏感な方ではないらしいというのは見ていてなんとなく、感じている。
おせっかいをするのもなんだか違う気がするし、彼女がそうでいいと納得しているなら俺が彼に何か彼女の事を助言するのも違う。進展している訳じゃあないし。
「あっ、なにしてるのぉ?」
そんなことを考えていると間延びした優し気な声が聞こえて、ユルシュル殿がびっくりしたように顔を跳ね上げ、俺に隠れるようにして縮こまってしまう。
「あらあーイダちゃん、びっくりさせてごめんねぇ?」
優しい色をした髪を耳にかきあげながら困ったように謝罪してきたのはロージエ殿だった。ふるふると彼女の言葉に、ユルシュル殿は首を左右に振る。
「二人で内緒話してたのねぇ?ごめんねえ…」
「ああ、ちょうど終わりそうだったとこでしたし、いいんです」
ふんふん、と俺に隠れたユルシュル殿が首を動かしている気配を感じる。多分顔を見せれる状態ではないのだろうなと考えてしまう。
「ちょうどユルシュル殿からいろいろ教えてもらっていて…記憶が俺は曖昧だから…」
「そぉなんだあ。ふふふ、仲良しねえ」
「……年の離れた妹、という感じがします」
「わかるぅー、私もイダちゃん妹みたい―って思ってるのよお」
にこにこと笑うロージエ殿は、ユルシュル殿の様子を見て何か察したのか、話しかけてきてくれた位置からは接近しようとしない。
「ロージエ殿は今日は非番でしたか」
「私は大概非番なんだけど、お家の掃除とか色々あるのよー…あと武器の調達とかあ…手入れを頼んだりするしぃ」
あれと、これと、と指を折りながら数える彼女は困ったように笑う。
「隊長も色々あって大変なのよねえ……エルちゃんはよくやってるわあほんとぉ」
「お忙しそうにしていらっしゃいますよね」
「ふふ、でしょ?大概いつあっても軍服姿なのよね」
「そうですね…」
話しながらこの間の服装を思い出す。長いコートに、降ろした前髪。いつもと違う格好。つい、また見れるだろうかと思ってしまう。少しだけそんなことに思いを馳せていると、隠れていたユルシュル殿がやっと出て来たらしく、近くに感じていた気配がほんの少しだけ離れていく。
「イダちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
ロージエ殿がにこりと微笑みながらそう言えば、後ろにいる彼女も言葉を返す。
「ノニンさん、あの、ありがと……ござます、」
「え?あ、あぁ、いいよ、またいつでも」
こくんと頷いた彼女は、するりと立ち上がって立ち去るようだった。ロージエ殿に軽く会釈をして、その姿は宿の角を曲がって消えていく。
「イダちゃん、ノニンちゃんに懐いてるのねえ」
「…懐いて、貰ってるんでしょうか……、だったら光栄です」
「懐いてるわよー」
ユルシュル殿がいなくなった代わりに、今度はロージエ殿が隣にしゃがみ込んで来る。
「ノニンちゃんは良い人だもの!エルちゃんはまだ貴方の事警戒してるけど」
「そのようでした…ロージエ殿は、俺を不審に思われませんか?」
「うーん、実を言えばちょっと怪しいなーとは思ってるのよ、でもまあ、自分から「不審に思わないのか」なんて聞いてくるくらいな人だから、良いか―って感じなのよ」
「…そ、そうでしたか」
「何かあっても負ける気しないからね私」
「ははは、そのときはええと、遠慮なさらないで頂ければ、幸いかと」
「任せて!」
そういって笑う彼女を、素直に頼れる人だと思う。
「そうだー!私も内緒話していい?」
「え?は、はあ、俺でいいんでしたら、どうぞ」
「女の人が苦手な男の人と仲良くなるにはどうしたらいいと思う?」
「…難しい問題のような」
「そうよねえー」
どうしよーと困った声をだした彼女は、しかし、どこか酷く楽しそうだ。
「ノニンちゃんが女の人苦手なのはなんでえ?って…聞いてもいいの?」
「あー…そう、ですね…女性運が悪かったのかな、としか……ぼんやりした記憶的に…」
「あら、そうなの…苦労したのね、えらいえらい」
うんうんと笑う彼女の笑顔は優しい。実は最初、あなたのようなタイプが少し苦手で警戒していたのだ、とは言えない。今は、もう、素直で愛らしい方だとは思っているので初対面程の警戒はしていないのだが。
「困ったなあ、仲良くしたいんだけど、嫌われちゃったかもしれない…」
「そうなんですか?」
「ショックぅ……」
はあ、とため息をつく彼女の顔は先ほどと違って、途端に困惑した顔だ。
「……好きな、んですか?その方の事」
「うーん……どうかな、まだわからない。でも、優しくて純粋で可愛いって思うの」
ふふふ、と花のように笑ってみせた彼女はころころと表情を変えて、ああ、わからないとは言ったけど、楽しんでいらっしゃるのだと思う。
「でもダーリンは…そんなタイプじゃなかったからちょっとわからなくって…」
難しいわ、と零し、彼女は風に揺れる髪をそっと手で抑える。なんだか今日は、そういった相談を受けるな、と先ほどのユルシュル殿を思い出しながら、暫くロージエ殿ともお話をしていた。
ちょっといいですか、と聞き取れないほどの声で、しかしローブの裾をつい、と引かれながら、ユルシュル殿が素早く周囲を視線だけで確認したのち発言した。何だろうかと彼女を見るとちらちらと視線があちこちに泳いでいていつも静かにしている彼女らしくはない。
「場所を変えようか」
こくんと頷いたのをみて、少し考えた後、いつもの裏口に向かう。薪割りをしている場所の、近く。つい数日前、ゼルマが大量に運んできた丸太が積んであるその後ろへ回り込む。あまり、女性とこういう所で二人きりは気がひけるのだが、食堂ではなんだか話しづらそうでもあった。
「ええっと」
「……あの、………って」
「…す、すまない、その、聞こえなくて」
普段から小声の彼女がますます声を潜めるので、風に吹かれてさわさわとにぎやかにしている葉の音にも負けてしまっている。もぞもぞと彼女が近くに寄ってきて、両手を筒のようにして顔を寄せてくる。少し気は引けるのだが、そこにそっと耳を寄せる。
「男の人、って、何を貰うと、嬉しいですか」
そそそ、っと再び離れて行った彼女は膝を抱えて座り、俯いたまま足元の草を指先でつまんでいる。
「そう、だな……」
具体的な例をあげたほうがいいんだろうか、と考え込むが、彼女が贈り物をしたい相手と俺の嗜好品は異なるので難しい。難しいのだが、
「釣りの、道具とかどう、かな……」
「釣り…」
「針の近くにつける疑似餌、というか、そういうの…、あとは、そう、だなあ…エプロンとか……実用的なほうが、彼は喜ぶかな、と、思うんだ」
彼女が密やかに好意を寄せてる人を春の終わりに近い頃伺っていた。その時も彼女は相当勇気を出して俺に相談してくれたのだと思うし、同時にそういった対象に俺は入っていないとはっきりわかって安心もした。俺と彼女が一緒にいてもそういったことには発展しないという確かな条件だ。
「エプロン……」
「最近ひとつダメにした、と言ってたんだ」
「……」
「あっても困るものじゃないかなと俺は考えるけど」
「エプロンに、しよう、かな」
「…彼、誕生日なのか?」
一応どこかで誰かが聞いているとも限らないので、名前は出さずに今は厨房で夕食に向けて準備をしているだろう青年を思い描きながら会話をする。問いかけに彼女は小さく首を左右に振る。
「……誕生日、は秋、だから」
「そうか…」
「星祭り、があって、」
そういえば、ユッテが星のお祭りがどうだ、とか言っていたと思い出す。夜だから幼い彼女は出歩くことが出来ないと。
「星、を見る祭りなのか?……その、ごめん、記憶の関係で」
「……星が一番たくさん見える…流れ星もそれなり、に、あって、春の時、みたいに夜店が出たり、するん、ですけど、す、……す…」
「す?」
「好き、な人、に、贈り物とかも、する、から」
「…そうなのか、」
草を毟る、とかいうことはなく、ずっと指先で摘まんだり、葉を撫でている彼女の耳がほんのりと赤い。
「なにか、贈り物したい、な、と、おもって…私の、勝手、なんですけど…」
「それで俺に?」
「………お仕事で、話す男の人、はいるけど、ノニンさん、は、年上で、お兄さん、みたいな感じ、だから」
「お兄さん・・・かな俺…」
「お父さんじゃ…年が近すぎる…し…」
「…そう、そうか…近いか、そうだよな……」
こくりと頷いた彼女はもぞもぞと動き直している。同じ姿勢だとまあ、圧迫されてしびれたりするからなと思いつつあたりを警戒する。念のため。念のためだ。レヴェンデル殿は聞き耳を立てていたとしても乗り込んで聞いてくるなんて、そんなことはしないとは思うが。
「…ノニンさんは、お祭り、は?」
「俺は……どう、しようかな…」
「………レヴェンデルさんとは…出かけない?」
「えっ…?いや、あー…彼女とは確かに色々と話はするけど、そういう感情じゃないんだ……」
「……仲良し、だから、そうなのかなと思ってた…早とちり……ごめんなさい」
「いや、いいんだ…。出かける、っていうことは、春の祭りみたいに、えーっと…そういう方たちで賑わうってことか」
こくりと彼女が首を縦に振る。
「ユルシュル殿からは…ああ、…彼も忙しそうだしな……」
「私の、片思い…なので……いい、です……。贈り物、は、仲良しの人同士でも交換したり、送ったりするから……ずるい、けど、隠れ蓑…」
「なるほど」
もじもじと俯く彼女の、徐々に小さくなっていく声に耳を傾ける。恥ずかしがり屋、というべきか、控えめな彼女は好意の示し方も控えめだと思う。彼は彼で、多分こういう恋愛とか、そういうものはどうも敏感な方ではないらしいというのは見ていてなんとなく、感じている。
おせっかいをするのもなんだか違う気がするし、彼女がそうでいいと納得しているなら俺が彼に何か彼女の事を助言するのも違う。進展している訳じゃあないし。
「あっ、なにしてるのぉ?」
そんなことを考えていると間延びした優し気な声が聞こえて、ユルシュル殿がびっくりしたように顔を跳ね上げ、俺に隠れるようにして縮こまってしまう。
「あらあーイダちゃん、びっくりさせてごめんねぇ?」
優しい色をした髪を耳にかきあげながら困ったように謝罪してきたのはロージエ殿だった。ふるふると彼女の言葉に、ユルシュル殿は首を左右に振る。
「二人で内緒話してたのねぇ?ごめんねえ…」
「ああ、ちょうど終わりそうだったとこでしたし、いいんです」
ふんふん、と俺に隠れたユルシュル殿が首を動かしている気配を感じる。多分顔を見せれる状態ではないのだろうなと考えてしまう。
「ちょうどユルシュル殿からいろいろ教えてもらっていて…記憶が俺は曖昧だから…」
「そぉなんだあ。ふふふ、仲良しねえ」
「……年の離れた妹、という感じがします」
「わかるぅー、私もイダちゃん妹みたい―って思ってるのよお」
にこにこと笑うロージエ殿は、ユルシュル殿の様子を見て何か察したのか、話しかけてきてくれた位置からは接近しようとしない。
「ロージエ殿は今日は非番でしたか」
「私は大概非番なんだけど、お家の掃除とか色々あるのよー…あと武器の調達とかあ…手入れを頼んだりするしぃ」
あれと、これと、と指を折りながら数える彼女は困ったように笑う。
「隊長も色々あって大変なのよねえ……エルちゃんはよくやってるわあほんとぉ」
「お忙しそうにしていらっしゃいますよね」
「ふふ、でしょ?大概いつあっても軍服姿なのよね」
「そうですね…」
話しながらこの間の服装を思い出す。長いコートに、降ろした前髪。いつもと違う格好。つい、また見れるだろうかと思ってしまう。少しだけそんなことに思いを馳せていると、隠れていたユルシュル殿がやっと出て来たらしく、近くに感じていた気配がほんの少しだけ離れていく。
「イダちゃん、こんにちは」
「こんにちは」
ロージエ殿がにこりと微笑みながらそう言えば、後ろにいる彼女も言葉を返す。
「ノニンさん、あの、ありがと……ござます、」
「え?あ、あぁ、いいよ、またいつでも」
こくんと頷いた彼女は、するりと立ち上がって立ち去るようだった。ロージエ殿に軽く会釈をして、その姿は宿の角を曲がって消えていく。
「イダちゃん、ノニンちゃんに懐いてるのねえ」
「…懐いて、貰ってるんでしょうか……、だったら光栄です」
「懐いてるわよー」
ユルシュル殿がいなくなった代わりに、今度はロージエ殿が隣にしゃがみ込んで来る。
「ノニンちゃんは良い人だもの!エルちゃんはまだ貴方の事警戒してるけど」
「そのようでした…ロージエ殿は、俺を不審に思われませんか?」
「うーん、実を言えばちょっと怪しいなーとは思ってるのよ、でもまあ、自分から「不審に思わないのか」なんて聞いてくるくらいな人だから、良いか―って感じなのよ」
「…そ、そうでしたか」
「何かあっても負ける気しないからね私」
「ははは、そのときはええと、遠慮なさらないで頂ければ、幸いかと」
「任せて!」
そういって笑う彼女を、素直に頼れる人だと思う。
「そうだー!私も内緒話していい?」
「え?は、はあ、俺でいいんでしたら、どうぞ」
「女の人が苦手な男の人と仲良くなるにはどうしたらいいと思う?」
「…難しい問題のような」
「そうよねえー」
どうしよーと困った声をだした彼女は、しかし、どこか酷く楽しそうだ。
「ノニンちゃんが女の人苦手なのはなんでえ?って…聞いてもいいの?」
「あー…そう、ですね…女性運が悪かったのかな、としか……ぼんやりした記憶的に…」
「あら、そうなの…苦労したのね、えらいえらい」
うんうんと笑う彼女の笑顔は優しい。実は最初、あなたのようなタイプが少し苦手で警戒していたのだ、とは言えない。今は、もう、素直で愛らしい方だとは思っているので初対面程の警戒はしていないのだが。
「困ったなあ、仲良くしたいんだけど、嫌われちゃったかもしれない…」
「そうなんですか?」
「ショックぅ……」
はあ、とため息をつく彼女の顔は先ほどと違って、途端に困惑した顔だ。
「……好きな、んですか?その方の事」
「うーん……どうかな、まだわからない。でも、優しくて純粋で可愛いって思うの」
ふふふ、と花のように笑ってみせた彼女はころころと表情を変えて、ああ、わからないとは言ったけど、楽しんでいらっしゃるのだと思う。
「でもダーリンは…そんなタイプじゃなかったからちょっとわからなくって…」
難しいわ、と零し、彼女は風に揺れる髪をそっと手で抑える。なんだか今日は、そういった相談を受けるな、と先ほどのユルシュル殿を思い出しながら、暫くロージエ殿ともお話をしていた。