短文詰め合わせ


「アンタ、子供を育てる気ィあるか」

 普段使いをしている端末がコールした。出掛けている弟のアンカから何か連絡事だろうかと操作をしたら、珍しい人からの連絡だった。
 このコロニーに入るにあたって色々と世話になった恩人なのだが、アンカの事情や自分の事もあってそれきり関わらないようにしてくれていたらしいので連絡らしい連絡をとったのはこれが初めてかもしれないと思いながら目を瞬かせる。

「先日、違法な人身売買があったんだが、それにあたって子供を数名保護している。そのうちの一人が少しばかり特殊でな、アンタどうだ」

 ああそういえば、と思い至る。確かアンカもこっそりと呼び出されていなかっただろうか。
 どうだ、と、彼が自分に尋ねるのだから他の誰かではまずいのかも知れない、と思う。レイフは慎重な人だ。
 首を縦に振ると画面の向こうに写った彼が聊か呆れたようにため息をつく。

「アンタ、人が良すぎるぜ、普通はどんな子供か聞くもんだろ」

 貴方がそうまでして頼ってきてくださったのだから聞くことはない、とチャットに打ち込むとますますため息をつかれる。
 それから、時刻と待ち合わせ場所を伝えられ、そこに行けばその子が待っている、と伝えられる。引率するのは彼の息子のような存在であり部下でもあるノエさんらしい、
 これも素直にうなずいて、移動時間を考えるにもすぐに準備して向かった方が良いな、と、元々でかけるにしても少ない荷物をまとめて待ち合わせ場所のコロニーに向かう。程なくしてついた場所には、ノエさんと、その隣に小柄な男の子が彼のマントを掴んで立っていた。

「シンシンさん、お世話になっています」

 ノエさんは相変わらず生真面目にこちらに頭を下げる。軽く癖がついている淡い金の髪の毛がさらりと頭を下げたことで揺れた。

「レイフさんからお話は聞いたかと思うのですが、この子のことをお頼みしたいんです」

 さぁ、と彼が小柄なその子の背を押すと、おずおずと隠れていたその子が顔をだす。怖がらせないようにしゃがんで彼より下に視線を落とす。上半身は、自分たちと大して変わりはないように見えるが下半身が確かに特徴的かもしれない。

「名はショウキ、と言います」

 ふんふん、と頷いて話を聞く。

「出身は惑星マギウスで間違いがなさそうです。ジャジン、という種だそうで…親も早くに亡くしたらしくその過程で攫われたようでして……」

 初めて聞く惑星の名前に首を傾げると、ノエさんが説明をしてくれる。惑星マギウスに住んでいる種族の殆どが魔術師と呼ばれる人たちと契約を交わして使役されている種族だそうで、奴隷とかそういったものではないらしい。それでもまだ未調査な部分も多い上に子供で未熟だということで捕まえやすかったのでは、と言う事らしい(大人になると皆強いらしい)。

「急な頼み事で申し訳ないのですが」

 そんなことはないという意思を示すために首を左右に振る。

「ショウキ君、この人の家でこれから暮らすことになる」

 挨拶は出来るかな、というノエさんの声は優しい。彼は顔こそ厳つめだけど優しい人だ。

「ショ、ショウキ、です、」

 おずおずと声をだし、それから小さく頭を下げる姿に笑いかけると、少しだけ笑い返してくれる。
 共通語は話せるらしいことに安心しつつ、字は読めるのかとノエさんに尋ねると、読めると返されたので、端末に文字を打ち込む。

 
 ─初めまして、シンシンです。これからよろしくお願いします。俺は声が出ないので、こういう形でしかお話が出来ない。ごめんね。


 文字を読むのは少し時間がかかるのかもしれない。じっと端末の文字を目で追っていたあと、彼は小さく頷く。

「だ、だいじょうぶ、です」
「挨拶も済んだところで申し訳ない。まだ仕事があるので失礼します」
「お、おじちゃん…」
「また会いに来る、元気でな」

 ショウキ君は彼になついているらしかった。くしゃくしゃと頭を撫でられて少し嬉しそうにしたものの、離れていく彼を暫く目で追っていた。
 行こうか、と端末に打ち込んで見せてから彼が頷いたのを確認して手を差し出す。握ろうかどうしようか悩んでいるのを見てつい小さい頃のアンカを思い出す。ふふ、と笑うと彼はやっとおっかなびっくりといった感じで手を握ってくれる。
 俺自身が声が出せない事情もあって家につく間はずっと会話らしい会話がなかった。それでも彼から過度な緊張は感じることもなく安心している。多少の警戒が抜けないのはしかたがないことだろう。

「シンシン!」

 もうすぐ我が家、という所で後ろから聞き知った声がする。アンカだ。アンカは良い子だけど、顔に傷があって怖いし、体格も結構いい。ショウキ君が怖がるんじゃないかな、と思ったら案の定俺の後ろに隠れてしまう。

「シンシンお帰り!っと、…そのこは?」

 今日から一緒に暮らすんだよ、と文字を打ってそれを見せる。

「一緒に?」

 この間の取り締まりで、と打ったところでアンカが、ああ、と納得したように頷く。

「そういうことか!わかった!」

 声が少し大きいかな、と打って見せる。ごめん、と首を竦めて謝る姿は昔と変わらない。

「でかい声出して悪かったな、俺はアンカだ、坊主の名前は?」

 俺の後ろに隠れたままのショウキ君にそう声をかけるアンカもやっぱり、しゃがみ込んで話しかける。根気強く彼が出てくるのを待って、やっとショウキ君が顔を出すとアンカがにぱにぱと笑って見せた。

「シンシンは俺の兄貴なんだ、一緒に住んでる」
「ショ、ショウキ…です」
「おう、そっか!宜しくな」

 不安そうに見上げてくるショウキ君の頭を出来るだけ優しく撫でる。
 アンカは俺の弟で、良い子、ショウキ君も良い子だからきっと仲良くできるよ、と打ち込んだものを見せると彼は時間をかけて読み、小さく小さく頷く。

「大丈夫だ、俺の事は慣れたらでいいし、まずは兄貴と仲良くなってくれ」

 アンカがそう話しかけるとやっぱりまだ怖いらしい。ぎゅう、としがみつかれる。

「夕飯、足りねえよなあ、俺買って来るから」

 うん、お願い、と声に出せなくてもアンカは一つ頷くだけで分かってくれる。じゃあ、とゆっくりした足取りで店が立ち並ぶエリアに向かって歩いていくのを見送りながら、ショウキ君をなだめる。

「ご、ごめんなさい、僕、」

 アンカは、大きい。顔に、けがも、あるから、しょうがない、アンカも、慣れてる、きにしないで、と今度は単語を区切るように書いてみた。さっきより読む速度があがったので、こうして区切って書いたほうが良いのかも。
 頭を撫でると彼は少し肩の力を抜く。色々怖い思いもしたんだろうから、少しずつ怖いものがなくなっていって元気になってくれればいいななんて思う。

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