短文詰め合わせ
「この前ね」
「うん」
適度に暖められた室内のカウチで、二人、ぐだぐだと柔らかい素材で出来ているブランケットをかけてうとうととまどろんでいた所に、ぽそりと呟かれたホライゾンの声は眠そうと言うよりは力を入れて発音する気がないといった印象を受ける。
続きを促すように相槌を打つと、もぞもぞと動いている音がしている。
「ガエル君がさ、」
「なんだっけ、学者だっけ…そいつ」
「そうそう、それ」
「うん、どうした」
「好きな子がいるんだって、吾輩に相談するわけ」
「相談相手間違ってねえか」
「それー、吾輩もそう思ったんだよーそう思ってね、言ったんだけど、ガエル君が吾輩じゃないと相談できないっていうの」
ガエル君、というのはフーリレ出身のやたら背の高い学者だ。一度ホライゾンがイオを紹介するから、と、連れてきた時がある。真面目そうな男、というのと、融通が利かなそうな顔だなというのが第一印象。チャットでよく会話をしているらしい。そもそもホライゾンも研究者として在籍しているから話は合うのだろうが、そもそもおっさん、外面はなるべくオタク全開しないように頑張って猫被っているらしいのでオタク方面というより純粋に研究分野で意見が合うんだろう。なんでか信頼されているという話も良く聞いた。
しかし寄りにもよって恋愛相談をこのおっさんに吹っ掛けたというのがもう、なんかもういろいろ終わった案件の匂いしかしない。
「そりゃまた、困ったな」
「そー困っちゃったの、」
「そんで、内容は」
「年上の人で好きな人がいるんだけどね、凄く忙しい人だから、会いに行くのを都合つけるのが申し訳ないんだって」
「はあ、そんなの会いたいっていって会えばいいじゃねえの」
「ファゼット君はそれですむからいいけどーーー。ガエル君は超真面目だから、ちゃんと相手の都合考えてるんですうーー」
確かにあの男は真面目にそういう所を考えそうだな、と納得する。少し神経質にも見える目つきや服のきっちりした着方から、自分のようなぐうたらとは違って、だいぶストイックでクッソ真面目なんだろうなあというのは想像に容易い。
「めんどくせえじゃん考えるの、好きだから会おうでいいじゃん」
「ファゼット君のそういうとこ10分の1くらいわけてあげたいよガエル君に」
「適切な分量だな」
半分なんて上げた日にはあいつのアイデンティティー崩壊するだろうな、とさえ思ってしまう。
「まあ、まあそれでさ、ガエル君定期的に会いに行ってるんだって、お仕事っていって、でも会うたび好きになっていって困っちゃうんだってごちそうさまだなオイって話だと思わない?」
「二次元的に言うと」
「女体化になるけど真面目で一途可愛い控えめな女の子が年上の先輩へ健気に想いよせてるみたいなシチュエーションで最高」
「ガエルの女体化かーーまあ、顔は可愛いし有かなあ」
ホライゾンは、まあ、出会ってしばらくして暴露されていたが相当なオタクだった。今ではすっかりこいつの話すオタク用語だのなんだの妄想話に理解が寛容になってきている。シリウスが成人近い年になってきたあたりからそうだったが、ついに三次元でも妄想するようになったかこのおっさんと遠い目をするが、別に嫌悪感はない。ちゃんと分別しているし。誰に害を及ぼすというわけでもないし。
「ガエル君がもっと華奢で小さかったらすごく好きなタイプの二次元なのに、メガネっ子だし…」
「すっかり女体化してやがる」
華奢で小さいとかもうキャラチェンジもいいとこだし誰だテメエ案件じゃねえか、と思ったが多分ホライゾンもそれは十分承知しているんだろう。
「あ、話それた、そうそれでねえ、ガエル君相手とプライベートで会えるようにうまく言えないかなってきくわけ」
「お前に?」
「そうなの」
「年齢=恋人いない歴のお前に?」
「そうなの、ダイナミックしんどい」
「やっぱり相談相手間違えてねえか」
「だよね、そうだよね、でも、でもガエル君めっちゃ真面目だし、一途だってわかっちゃってるからさーーーどうにか応援してあげたいなあと思って、」
だから君に、といいながらこちらをちらちら見てくるが、こっちだって恋愛経験ありまくりなわけじゃない。いっそお前と同じで年齢と恋人いない歴一緒だっつうの。
きっとガエルは真剣にこいつに相談したから、こいつだって無碍にすることもしないで真剣に話聞いてやったんだろう。ちょっと喧しいが相手の苦しい、とか悲しい、とか汲み取って声をかけてくれる、そういう優しい男だと十分知ってる。
「俺に間接的に相談してもなあ…絶対俺とじゃ、あいつと意見も思想もあわねえよ」
「…だよねえ」
「めんどくさいから既成事実作っちまえっていったらおこりそうじゃん」
「怒るよーだって真面目だものオー」
「相手の情報みっちり調べ上げてやるしかないんじゃねえの、お前ガエルより閲覧権限高いだろたしか」
「た、かいけどー高いけどでもなあ、おっさんの個人情報ガン見しても面白くないんだよお」
「あーガエルは男が恋愛対象だもんな…」
「顔みたけど美形とか儚げとか美少女っぽいおっさんじゃなかったし」
「パワーワード」
儚げなおっさんってなんだよ、と昔の俺なら言うんだろうがこいつの趣味に付き合ううちになんとなく振り分けがわかってしまう自分がいる。
「多分ガエル君の好きな人、そこは開示されてないけど異性愛者説強いし」
「困ったなそりゃ」
バイセクシャルならまだ希望はあったのにな、と他人事だから思える話だ。
「うう、ガエル君の力になってあげたいのに吾輩あまりにも無力なの…」
「ヒロインみてえなセリフだなおっさん」
「やべえ」
やべえじゃねえよ。
了
「うん」
適度に暖められた室内のカウチで、二人、ぐだぐだと柔らかい素材で出来ているブランケットをかけてうとうととまどろんでいた所に、ぽそりと呟かれたホライゾンの声は眠そうと言うよりは力を入れて発音する気がないといった印象を受ける。
続きを促すように相槌を打つと、もぞもぞと動いている音がしている。
「ガエル君がさ、」
「なんだっけ、学者だっけ…そいつ」
「そうそう、それ」
「うん、どうした」
「好きな子がいるんだって、吾輩に相談するわけ」
「相談相手間違ってねえか」
「それー、吾輩もそう思ったんだよーそう思ってね、言ったんだけど、ガエル君が吾輩じゃないと相談できないっていうの」
ガエル君、というのはフーリレ出身のやたら背の高い学者だ。一度ホライゾンがイオを紹介するから、と、連れてきた時がある。真面目そうな男、というのと、融通が利かなそうな顔だなというのが第一印象。チャットでよく会話をしているらしい。そもそもホライゾンも研究者として在籍しているから話は合うのだろうが、そもそもおっさん、外面はなるべくオタク全開しないように頑張って猫被っているらしいのでオタク方面というより純粋に研究分野で意見が合うんだろう。なんでか信頼されているという話も良く聞いた。
しかし寄りにもよって恋愛相談をこのおっさんに吹っ掛けたというのがもう、なんかもういろいろ終わった案件の匂いしかしない。
「そりゃまた、困ったな」
「そー困っちゃったの、」
「そんで、内容は」
「年上の人で好きな人がいるんだけどね、凄く忙しい人だから、会いに行くのを都合つけるのが申し訳ないんだって」
「はあ、そんなの会いたいっていって会えばいいじゃねえの」
「ファゼット君はそれですむからいいけどーーー。ガエル君は超真面目だから、ちゃんと相手の都合考えてるんですうーー」
確かにあの男は真面目にそういう所を考えそうだな、と納得する。少し神経質にも見える目つきや服のきっちりした着方から、自分のようなぐうたらとは違って、だいぶストイックでクッソ真面目なんだろうなあというのは想像に容易い。
「めんどくせえじゃん考えるの、好きだから会おうでいいじゃん」
「ファゼット君のそういうとこ10分の1くらいわけてあげたいよガエル君に」
「適切な分量だな」
半分なんて上げた日にはあいつのアイデンティティー崩壊するだろうな、とさえ思ってしまう。
「まあ、まあそれでさ、ガエル君定期的に会いに行ってるんだって、お仕事っていって、でも会うたび好きになっていって困っちゃうんだってごちそうさまだなオイって話だと思わない?」
「二次元的に言うと」
「女体化になるけど真面目で一途可愛い控えめな女の子が年上の先輩へ健気に想いよせてるみたいなシチュエーションで最高」
「ガエルの女体化かーーまあ、顔は可愛いし有かなあ」
ホライゾンは、まあ、出会ってしばらくして暴露されていたが相当なオタクだった。今ではすっかりこいつの話すオタク用語だのなんだの妄想話に理解が寛容になってきている。シリウスが成人近い年になってきたあたりからそうだったが、ついに三次元でも妄想するようになったかこのおっさんと遠い目をするが、別に嫌悪感はない。ちゃんと分別しているし。誰に害を及ぼすというわけでもないし。
「ガエル君がもっと華奢で小さかったらすごく好きなタイプの二次元なのに、メガネっ子だし…」
「すっかり女体化してやがる」
華奢で小さいとかもうキャラチェンジもいいとこだし誰だテメエ案件じゃねえか、と思ったが多分ホライゾンもそれは十分承知しているんだろう。
「あ、話それた、そうそれでねえ、ガエル君相手とプライベートで会えるようにうまく言えないかなってきくわけ」
「お前に?」
「そうなの」
「年齢=恋人いない歴のお前に?」
「そうなの、ダイナミックしんどい」
「やっぱり相談相手間違えてねえか」
「だよね、そうだよね、でも、でもガエル君めっちゃ真面目だし、一途だってわかっちゃってるからさーーーどうにか応援してあげたいなあと思って、」
だから君に、といいながらこちらをちらちら見てくるが、こっちだって恋愛経験ありまくりなわけじゃない。いっそお前と同じで年齢と恋人いない歴一緒だっつうの。
きっとガエルは真剣にこいつに相談したから、こいつだって無碍にすることもしないで真剣に話聞いてやったんだろう。ちょっと喧しいが相手の苦しい、とか悲しい、とか汲み取って声をかけてくれる、そういう優しい男だと十分知ってる。
「俺に間接的に相談してもなあ…絶対俺とじゃ、あいつと意見も思想もあわねえよ」
「…だよねえ」
「めんどくさいから既成事実作っちまえっていったらおこりそうじゃん」
「怒るよーだって真面目だものオー」
「相手の情報みっちり調べ上げてやるしかないんじゃねえの、お前ガエルより閲覧権限高いだろたしか」
「た、かいけどー高いけどでもなあ、おっさんの個人情報ガン見しても面白くないんだよお」
「あーガエルは男が恋愛対象だもんな…」
「顔みたけど美形とか儚げとか美少女っぽいおっさんじゃなかったし」
「パワーワード」
儚げなおっさんってなんだよ、と昔の俺なら言うんだろうがこいつの趣味に付き合ううちになんとなく振り分けがわかってしまう自分がいる。
「多分ガエル君の好きな人、そこは開示されてないけど異性愛者説強いし」
「困ったなそりゃ」
バイセクシャルならまだ希望はあったのにな、と他人事だから思える話だ。
「うう、ガエル君の力になってあげたいのに吾輩あまりにも無力なの…」
「ヒロインみてえなセリフだなおっさん」
「やべえ」
やべえじゃねえよ。
了