幸せの青いことり


 非常に便利なシステムだな、とホライゾンが手渡してきた学習に使用する為の端末をいじりながらそう思う。
 おっさんたちが開発してきたらしいこの学習のシステムは、興味のある講義を生徒側は好きなように選べる。必須科目、みたいなものもあるにはあるが全体的に見てもその数はかなり少ない。人種の多様性を考慮して必要最低限、例えば公用語とかそういった類を必須としてあとは自由に講義を選択できる。時間が合わなければあとでタイムシフトで見れるし、「良かった」と感じた講義内容には一人当たりに割り振られているポイントのようなものがあって、そのポイントを送ることが出来る。チップみたいなものだ。悪用されないように工夫もしてある、とかでいったいおっさんの他にどんなメンツが集まってんだ、と気になってくる。ポイントに関してはおっさんが「推しに課金するみたいな…」と零していたので多分おっさんが提案したんだろう。
 他に講義を受けている奴らがいる気配は確かに講師の質疑応答で感じはするがそれほど感じまくるわけでもない。質問はチャット欄みたいなところに書き込むと講師にだけ通達されるらしく、共有したい質問だ、と講師が感じた場合も、出身や年齢は伏せられているので受けてるこっちは誰が質問したかもわからないから質問の共有化も比較的ハードルが低い。
 一番の課題は講師が少ない所かなあと言っていたが、確かに、少ない人数で、ローテーションをしている印象だ。
 しかしそもそも講師のレベルが高いというかその半数以上が長命な種族か不死、みたいな奴らが集まっている。見聞きしてきた経験が違う。
 ちなみに講師の中にホライゾンはいない。顔出しはいやだ、とかなんだとか言っていたが、結局は人前に立って教えられるような度胸も知識もないからとびくついていた。知識はあると思うんだが。それに人見知りの緊張しいらしく、ギゴウさんにも誘われたらしいが丁重にミルフィーユ(ケーキの類らしい、まだ食ったことはない)状態にしてお断りしたからとかわけのわからない事を言っていた。

「にーに」
「うおっ」

 端末を弄りながら次の講義はどれを受けようかと吟味していた時、高いものの小さな声と一緒に角を掴まれる。

「し、シリウス、危ない、危ないから離せ」

 ついこの間まで俺の事を「ふー」と呼んでいたちびっこはいつの間にか「にーに」と呼ぶようになった。その呼び方をすると決まってホライゾンが口元を抑えて震えながら見ていたので恐らく教えた犯人はあいつだ。あいつだと思う。自信はないが…。
 俺は自分の事は、恥ずかしさはあるが「お兄ちゃん」としかシリウスの前で言ったことがない。ホライゾンは嬉々として「パパだよ」といっているしシリウスも「ぱぱぁ」なんて言ってるのでこういった呼び方の発生源は大体ホライゾンじゃないかと思う。

「ねんね?」
「寝てない…あ、こら、危ないっていってるだろ」

 へにゃへにゃと笑いながらよじよじとカウチに上ろうとするのを、諦め半分で抱き上げる。立って歩いてうろうろするようになってきたらこれだ。相変わらずのんびりしてるが行動力はあるらしく、こうやってよじ登ってくる。今度シリウスのもろもろのお祝いをホライゾンがする気らしい。
 あまり喋ったりしないものの言葉の飲み込みは早いらしく、本当に簡単な単語を組み合わせて意思表示をするようになった。ガキっていうのは成長が早いんだな、とつくづく思う。

「寝ぐせついてんだけど」
「??」
「暢気だな、おま…あなたは」

 出来るだけシリウスには綺麗な言葉遣いをさせないと、と思い気を付けてはいるがついつい言葉使いが雑になるのは今後も気を付けないと、と思う。とりあえず頭の後ろでわさわさと大賑わいしている寝ぐせをどうにかしてやろうと思った。
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