幸せの青いことり
「ファゼット君、学校行ってみない?」
そう提案を受けたとき、もそもそとホライゾンが手空きの時に作ったサンドイッチを齧っていた。硬いパンは顎が疲れるのでパスと告げたところ「ふんわり柔らか」と謳っているサンドイッチにする用のパンを買ってきた。へえ、世の中色々あるんだなと思ってもそもそと齧っていたが、その言葉に目を細めてしまう。何言ってんだこいつ、の意味でだ。
「行くっていっても本当に学校へ行くわけじゃないんだ。今試験的に行ってるもので、自宅で学習が出来るようなシステムを作ってる所なんだよねえ」
「……おっさんが?」
「え、あ、いや、他にもいろんな皆で…」
「……おっさんほんと何でもやるよな、それで?」
「あぁ、それで君とか他にも何人かの子供に、まあ実験参加みたいになっちゃうんだけど、やってみてもらおうってことになったんだ。キュレイ君も参加するよぉ」
「キュレイも?」
整ったあのきらきらとした顔が浮かぶ。あれから1年たったか2年くらいか、どのみち随分あってないが思えば俺もあいつも教育を受けている年齢ではある。
「キュレイはいいけど、俺はどうすんだ?QQの奴がいるなんて知れていいのか」
「その点は大丈夫、匿名っていうか、講師の人にだけしか参加者がわからないようなシステムだからね。受けたい授業を自分で選んで組むんだー、もし授業時間が被っても、リアルタイム参加は出来ないけどタイムシフトで見れるようにもなってる」
「へえ……受けてる側からしたらマンツーマンみたいなもんか?」
「まあ、他の生徒の気配は講師越しに感じちゃうかもしれないけど」
「………ふぅん……でも俺金とかねえしべつに、」
「あ、そこは平気、吾輩が君の授業料は持つので」
「あ??」
「気にせず勉強してくれたら嬉しいよ!」
「いや、その、あのさぁ」
授業料持つってどういう神経してんだこいつ、と思ってしまう。聞くからに便利そうな授業のシステムだがそれなりな金額になるんじゃないかと想像してしまう。それともこいつだけ特別なにか免除されるモンでもあるのか。開発参加特権みたいな、と考える。
「いいのいいの、ファゼット君だって吾輩の大切な家族だもの」
「……そ、そうはいっても」
「良いんだよ。学ぶってことをお金とか世間体とかそういうので、気にしてほしくないんだ。君が興味があることをたくさん吸収してくれたら、吾輩はそれだけで嬉しい…君に沢山好きなことを学んでほしいよ」
「…わ、かった。学校、っての、参加するよ」
ほんと、やった、と楽しそうに声があがる。
本当にこいつ楽しそうだな。楽しそうだから、何の疑いも持たずに信じてもいい、と思える貴重な相手だと思う。
「でも、ほんと、あの、」
「あ、ホント、良いんだよ、吾輩えーっと本とか出してるから、印税とか入ってきたりするし」
「ブルジョワかよテメエ」
「質素に暮らしてるつもりだよお……」
首を竦めて困ったようにそういうおっさんの言葉は信じられる。屋敷は確かにでかいし無駄に広いが、使用人ではなくて掃除用のロボットがたまに床をゆんゆんと動き回っていたりするし、調度品も、一点ものかというものはちらほらどころではなく殆どがそうだが食事は、と言ったらこのおっさん自身固形物を食べてこなかったから、それほど食費もかかっていないんだと思う。初めてここにきたとき冷蔵庫の中は液体が多かったと記憶しているし、そもそも一人当たりの食費なんてアホみたいに高い店に外食にいってるわけでもないならたかが知れている。
何かを買いまくって浪費しているような気配もないし、まあ、俺やシリウスの事になると途端に財布の紐がほどけて床に放置されてる勢いだから止めてやらないといけないが、実際本当に金はあるんだろう、とは思う。
「一点ものの家具買ってて質素っつうのはなあ」
「ええーでも、うう、素敵なんだもの…」
「……俺あんたに何も返せないけど、いいのかよ」
問題はそこだ。重要視すべきはそこなんだ。将来的に、労働可能な年齢に達したとして果たして俺を雇おうなんて奴がいるのかもわからないし、この身体が労働できるほど回復するのかという未来も予想が出来かねている。希望を抱くのは容易いがこれが崩れた時の自分の精神面はどうなるかと考えると、持たずに置こうと思考してしまう。
「いいよ、そんなの、本当に構わないんだ」
「だってアンタ」
「君が、こんな得体のしれない男の手を取って、ここまで信じてきてついてきてくれた事だけで十分だよ」
「………ホライゾンさん、」
「ひえっ、かかかかしこまらなくていいよお、ね、ね」
「……ありがとう…」
じんわりと顔が熱を持つのを自覚して俯いたその頭を、おっさんの手が優しく撫でていった。
そう提案を受けたとき、もそもそとホライゾンが手空きの時に作ったサンドイッチを齧っていた。硬いパンは顎が疲れるのでパスと告げたところ「ふんわり柔らか」と謳っているサンドイッチにする用のパンを買ってきた。へえ、世の中色々あるんだなと思ってもそもそと齧っていたが、その言葉に目を細めてしまう。何言ってんだこいつ、の意味でだ。
「行くっていっても本当に学校へ行くわけじゃないんだ。今試験的に行ってるもので、自宅で学習が出来るようなシステムを作ってる所なんだよねえ」
「……おっさんが?」
「え、あ、いや、他にもいろんな皆で…」
「……おっさんほんと何でもやるよな、それで?」
「あぁ、それで君とか他にも何人かの子供に、まあ実験参加みたいになっちゃうんだけど、やってみてもらおうってことになったんだ。キュレイ君も参加するよぉ」
「キュレイも?」
整ったあのきらきらとした顔が浮かぶ。あれから1年たったか2年くらいか、どのみち随分あってないが思えば俺もあいつも教育を受けている年齢ではある。
「キュレイはいいけど、俺はどうすんだ?QQの奴がいるなんて知れていいのか」
「その点は大丈夫、匿名っていうか、講師の人にだけしか参加者がわからないようなシステムだからね。受けたい授業を自分で選んで組むんだー、もし授業時間が被っても、リアルタイム参加は出来ないけどタイムシフトで見れるようにもなってる」
「へえ……受けてる側からしたらマンツーマンみたいなもんか?」
「まあ、他の生徒の気配は講師越しに感じちゃうかもしれないけど」
「………ふぅん……でも俺金とかねえしべつに、」
「あ、そこは平気、吾輩が君の授業料は持つので」
「あ??」
「気にせず勉強してくれたら嬉しいよ!」
「いや、その、あのさぁ」
授業料持つってどういう神経してんだこいつ、と思ってしまう。聞くからに便利そうな授業のシステムだがそれなりな金額になるんじゃないかと想像してしまう。それともこいつだけ特別なにか免除されるモンでもあるのか。開発参加特権みたいな、と考える。
「いいのいいの、ファゼット君だって吾輩の大切な家族だもの」
「……そ、そうはいっても」
「良いんだよ。学ぶってことをお金とか世間体とかそういうので、気にしてほしくないんだ。君が興味があることをたくさん吸収してくれたら、吾輩はそれだけで嬉しい…君に沢山好きなことを学んでほしいよ」
「…わ、かった。学校、っての、参加するよ」
ほんと、やった、と楽しそうに声があがる。
本当にこいつ楽しそうだな。楽しそうだから、何の疑いも持たずに信じてもいい、と思える貴重な相手だと思う。
「でも、ほんと、あの、」
「あ、ホント、良いんだよ、吾輩えーっと本とか出してるから、印税とか入ってきたりするし」
「ブルジョワかよテメエ」
「質素に暮らしてるつもりだよお……」
首を竦めて困ったようにそういうおっさんの言葉は信じられる。屋敷は確かにでかいし無駄に広いが、使用人ではなくて掃除用のロボットがたまに床をゆんゆんと動き回っていたりするし、調度品も、一点ものかというものはちらほらどころではなく殆どがそうだが食事は、と言ったらこのおっさん自身固形物を食べてこなかったから、それほど食費もかかっていないんだと思う。初めてここにきたとき冷蔵庫の中は液体が多かったと記憶しているし、そもそも一人当たりの食費なんてアホみたいに高い店に外食にいってるわけでもないならたかが知れている。
何かを買いまくって浪費しているような気配もないし、まあ、俺やシリウスの事になると途端に財布の紐がほどけて床に放置されてる勢いだから止めてやらないといけないが、実際本当に金はあるんだろう、とは思う。
「一点ものの家具買ってて質素っつうのはなあ」
「ええーでも、うう、素敵なんだもの…」
「……俺あんたに何も返せないけど、いいのかよ」
問題はそこだ。重要視すべきはそこなんだ。将来的に、労働可能な年齢に達したとして果たして俺を雇おうなんて奴がいるのかもわからないし、この身体が労働できるほど回復するのかという未来も予想が出来かねている。希望を抱くのは容易いがこれが崩れた時の自分の精神面はどうなるかと考えると、持たずに置こうと思考してしまう。
「いいよ、そんなの、本当に構わないんだ」
「だってアンタ」
「君が、こんな得体のしれない男の手を取って、ここまで信じてきてついてきてくれた事だけで十分だよ」
「………ホライゾンさん、」
「ひえっ、かかかかしこまらなくていいよお、ね、ね」
「……ありがとう…」
じんわりと顔が熱を持つのを自覚して俯いたその頭を、おっさんの手が優しく撫でていった。