思わず見入ってしまうほどの赤が、空を包んでいた。
美しく染まった空と白い雲の間を、一匹のカイリューが立派な翼を広げて風を切り、空を舞うように飛んでいた。

その背には、現ジョウトチャンピオン・・・ワタルの姿があった。

「カイリュー、ここだ」

ワタルの声に従い、カイリューは穏やかな海に囲まれた港町へと上陸した。
買い物や散歩などで歩いている人の波を通りぬけて、目的地へと辿り着く。
ドアをノックすると、すぐにドアが開き、中から不安そうな表情を浮かべたなまえが出迎えた。

『ワタルさん・・・』

「連絡をくれてありがとう。とりあえず、詳しい話を聞かせてくれないか」

なまえは小さく頷くと、どうぞ、とワタルを中に招き入れた。


あの後、イリヤもレリアも最後まで会場に姿を現さなかった。
それどころか何度連絡をしても繋がらないままで、１日が過ぎようとしていた。
アローラのククイにも連絡をしたが、ククイ夫妻と研究をしたあとに、間違いなく船に乗って出発したという。

何かがおかしい。

そう直感したなまえがすぐに連絡を取ったのは、ワタルだった。
彼は現チャンピオンとしてももちろんだが、Gメンとしても活躍している上に、イリヤとも親交が深い。
なまえから連絡を受けたワタルは、すぐに彼女の元へと駆け付けたのだった。

イリヤ、レリアのスケジュール、ソニアとプラターヌからの電話のことを細かく聞いたワタルの表情が、わずかに曇った。

「ふたりの足取りをこちらで調査してみるよ。アローラには国際警察もいる。連絡をして調べてもらうように手配する」

１日経っても何の連絡もないのも、繋がらないのもおかしい。
ましてやそれがふたりともとなると、何かがあったと考えるのが普通だった。

ワタルの頭には、ある可能性が過っていた。

「なまえもひとりでいない方がいい。人目がある場所で数日過ごしたほうがいい」

なまえが今いるこのカイナシティの部屋は、イリヤが研究のために借りた空き家だ。
何があったのかわからない今、事件に巻き込まれたことも否定できない。

ワタルの言うことは確かに正しかった。

「カロスに行ってみようと思います。よく泊まっていたホテルがあるんです。もしかしたら、お母さまと会えるかもしれないし・・・」

確かにひとりでいるよりは、ホテルにいたほうが安心だ。
連絡をくれたプラターヌのところにも、久しぶりに顔を出すのもいいかもしれない。

さっそく明日の朝一の船で、なまえはカロスへ向かうことを決めた。

茜色の空が、だんだん暗く染まり始めていた。