頭の中が真っ白になった。
バクフーンが画面を注視していることから、何かしらなまえと関係があるのだろうと推測したマリィは、知ってる人？と尋ねると、驚いて声も出せないのか、なまえは小さく頷くだけだった。

ずっと繋がらない電話。返ってこない連絡。
ようやくその理由がわかった。

《彼は今、“とても忙しい”ですからね》

得体の知れない男からの言葉。
もしかして、あれは。
このことを言っていたというのだろうか。
だとしたら、なぜ。
どうして知っていたの？
次第に混乱していくなまえの頭の中を現実に引き戻したのは、鳴り響いたロトロトロトロト・・・とスマホロトムの着信を知らせる音だった。

急いで画面を確認すると、<イブキ>の名が表示されている。
通話ボタンを押す指は、自分でも無意識だったが、確かに震えていた。
　

〈もしもし、なまえ？ 私。イブキよ〉
『イブキさん・・・』
〈驚いたでしょう。安心して。全員無事よ〉

イブキはリーグ本部から事故直後に連絡を受け、すぐに向かったらしい。
四天王、ワタルも多少の怪我はしたものの、命に係わるものではないこと、
爆発に驚いたロトムが、ワタルのスマホから逃げ出してしまったこと。
それで連絡が出来なかったのだと教えてくれた。
事故の原因はまだわからないらしい。

『イブキさん、あの・・・』

ワイルドエリアで出会った、謎の男性。
話そうとしたとき、後ろからイブキを呼ぶ声が聞こえた。

「イブキさん、お電話中申し訳ありません。警察の方がお呼びです」

〈今行くわ。ごめんなさいねなまえ、改めてまた連絡するわ〉

そう言って、電話は切れた。
ひとまずワタルたちに大きな怪我がなかったということだけが、救いだった。
大丈夫？と心配そうに声をかけてくれたマリィに、小さく頷いた。

窓の外はすでに暗くなっている。
すっかり冷めてしまった食事を食べ終えてレストランを出ると、お互いに明日は早い。
お礼を言ってマリィと別れ、部屋でフロントで借りた夕刊の新聞を読む。

「セキエイ高原ポケモンリーグで爆発」と大きく見出しに書かれた記事。写真も大きく載っている。
テレビをつけると、ニュースでもこの件で持ち切りだった。

“本日夕方ごろ、セキエイ高原にあるポケモンリーグで爆発がありました。ジョウト四天王4名、チャンピオンのワタル氏がおり、病院に搬送されましたがいずれも軽傷との情報が入っております。
原因は特定されておりませんが、配電室付近に異常があった模様です。
リーグ付近のシロガネ山には強い野生ポケモンが生息していることから、迷い込んだポケモンの技で起こった可能性もあるとのことです。以上、現場からお伝えしました”

不安げな表情を浮かべるなまえと、険しい表情を浮かべてテレビを見るバクフーンを見て不安になったのか、心配そうに鳴いたライチュウの頭を優しく撫でた。
明日の出発は早い。
もう寝ようね、と声をかけてベッドに潜り込んだなまえに寄り添うように、２匹も横になって眠りについた。