エンジンシティ　ホテルスボミーイン

ポケモンセンターを出たころには、時刻はもう黄昏時、空は夕焼けの赤をわずかに残した紺へと染まりかけていた。
さすがにこの時間からの長距離の移動は厳しいと判断したなまえは、スボミーインで１泊することにした。
今日１日何も食べれていなかったため、ホテルのカフェで少し早めのディナーを楽しんでいた。
バクフーンは焼き立てのパンを頬張り、ライチュウは３段重ねのパンケーキに目を輝かせている。
料理を待つ間にスマホロトムを何回も確認するが、ワタルからの連絡はない。
ここまで連絡がなかったのは、今までで初めてだった。

「お待たせいたしました。ガラル風ビーフシチューでございます」

店員がビーフシチューとバケットを運んできた。
バターが添えられた焼きたてのバケットの香ばしく、ふんわりとした甘い香りが、不安を紛らわせた。
落ち着いたら連絡がくるだろうと自分を納得させ、冷める前に料理を食べようとフォークとナイフを手に持った時、どこからか、明らかな視線を感じた。
視線の先に目を向けると、立っていたのは１匹のモルペコだった。
お腹が空いているのだろうか、モルペコはなまえのバケットをじっと見つめたまま、動かない。

カフェはディナーの時間に近づくにつれて混み始めたが、近くにモルペコのトレーナーらしき人物の姿は見当たらない。
トレーナーとはぐれたのか、それとも野生ポケモンが迷い込んだのだろうか。

『た、食べる・・・？』

突き刺すような視線に、なまえは持っていたバケットをちぎって差し出すと、モルペコは待ってましたと言わんばかりに嬉しそうに駆け寄ると、ものすごい早さであっという間に平らげてしまった。
その豪快な食べっぷりに驚きつつも、もう一切れ渡すと、またすぐに平らげてしまった。
美味しそうに食べる姿を見ていると、自然と笑みが零れた。
まだまだ世界は広く、知らないことや見たこともないポケモンがたくさんいるのだと実感する。
バクフーンとライチュウ、そしてモルペコとしばらく食事を楽しんでいると、突然怒った声が響いた。

「こら！モルペコ！」