空飛ぶタクシーがどんどん遠ざかり、姿が見えなくなったころ、張りつめていた緊張の糸が解けたのか、なまえの身体は一気に脱力し、ふらふらとその場に座り込んでしまった。
すぐに心配そうに寄り添ったバクフーンの頭を撫で、大丈夫よ、と言うのが精一杯だった。
一体何だったのか、誰だったのか。
相手は自分のことを知っているのに、自分は相手を知らないということが、これほど恐ろしいことなのかと痛感する。
意図が読めないまったく得体の知れない相手には、恐怖心しかない。
震える指でスマホロトムを出し、ワタルの連絡先へと電話をかけたが、聞こえてきたのは長いコール音だけで、ワタルは電話には出なかった。
彼はＧメンでもあり、チャンピオンだ。忙しいのはわかっている。
けれど、いつも聴き慣れているあの声が、今は無性に聞きたかった。

気を取り直してゆっくり立ち上がると、まっすぐに歩き始めた。
エンジンシティへはそう遠くはないはずだ。
とにかく、早く街へと、人通りの多い場所へと向かいたい。
一刻も早くワイルドエリアから抜けたい。そんな一心で、自然と足取りも早くなる。
やっとゲートが見えてきた時、バクフーンが急に足を止めた。

『どうしたの？』

何かを探るように、きょろきょろと周りを見渡すバクフーンに、また誰かいるのではないかと、なまえは思わず身構える。
何かを察知したのか、急に走り出したバクフーンの後を急いで追いかけると、草が生い茂り、木陰になっていた木の下にポケモンたちが集まっていた。
ポケモンたちは心配そうな表情を浮かべて、何かを見ている。
その視線の先にいたのは、

『え・・・！だ、大丈夫！？』

横たわって、ぐったりとしているライチュウだった。
しかもこの辺りではめったに見かけない、アローラの姿のライチュウだ。
どうやら毒を浴びてしまったのか、苦しそうな表情を浮かべている。
バクフーンはポケモンたちの声を、ライチュウのかすかな鳴き声を、聞き逃さなかったのだ。
一刻も早くポケモンセンターに行かなければ、明らかに危険な状態だった。
抱き上げようと手を伸ばしたなまえに対し、ライチュウは激しく威嚇した。

『大丈夫よ、傷つけたりしないから・・・』

弱った身体で威嚇するライチュウの頭を優しく撫でてやると、なまえを敵ではないと認識したのか、ようやく威嚇を止めた。
落ち着いた頃を見計らい、優しく抱き上げる。

『よしよし、いい子ね。ポケモンセンターに行きましょう』

なまえの言葉に小さく返事をしたライチュウを安心させるように微笑むと、なまえとバクフーンは急いでエンジンシティへと向かって走りだした。