ミモザの花が咲く頃に
Your Name?
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ホウエン地方、カイナシティ。
ぼんやりとした青白い空から、少しずつ太陽の光が差し込みはじめた。
多くの人がまだ眠りの世界にいる中、ある部屋の一室では、穏やかな世界とは対照的に慌ただしく出発の準備が始まっていた。
あれもこれもと、忙しなく大きなカバンに荷物を詰め込んでいる長身の男性の名はイリヤ。
有名なポケモン研究者だ。
若くしてオーキド博士の元でポケモン研究の道を志す傍らで、ジョウト地方のチャンピオンにも輝いた実力者。
「二刀流のチャンピオン」と呼ばれてその名を馳せたが、夢であったポケモンの研究に打ち込むために、その座をワタルに譲ってチャンピオンを引退した。
バタバタしているイリヤとは正反対に、サングラスも必要かしらねえ、とのんびりした様子を見せている女性の名は、レリア。
彼女も優秀な考古学者として名高い存在である。
古代文字の解読を得意とし、イリヤと共に日々研究に励んでいた。
ふたりがこんなに急いでいるのには、もちろん訳がある。
アローラ地方へ調査に向かうために、朝一の船へ乗らなければならないからだ。
やっと荷造りが終わったのか、これでいいかな、とイリヤが言ったのと同じタイミングに、部屋のドアが開いた。
『お父さま、お母さま、コーヒーを入れたわ』
白い湯気と良い香りが立ち上るコーヒーカップを運んできたのは、16歳の誕生日を迎えたばかりの一人娘のなまえだった。
3人はテーブルを囲んで、熱くもなくぬるくもない ちょうど良い温度で入れられたコーヒーをゆっくり味わいながら、出発までのわずかな時間を楽しんだ。
「アローラに着いたら連絡するわね。お土産は何がいいかしらねえ」
『お母さまったら』
「ちゃんと戸締りをして、火にも気を付けるんだよ。あまり夜遅く出掛けないようにね」
『大丈夫よお父さま。カギはちゃんと3つかけているもの』
優秀な博士である二人は、今やテレビやラジオなどのメディアにも引っ張りだこで、世界のどこに行ってもその名が知れ渡っているが、なまえは一切その姿を見せたことがない。
仕事柄どうしても家を空けることが多かったため、知らないところでなまえが追い掛け回されたり狙われたりしないように、という両親のせめてもの願いであり、最大限の配慮だった。
「じゃあ、行ってくるからね。バクフーン、なまえを頼んだよ」
そう言ってイリヤが頭を撫でると、バクフーンは任せろ、と答えるかのように力強く一鳴きした。
大きなリュックを背負ったふたりを、玄関まで見送る。
『行ってらっしゃい』
さまざまな地方へ出かけていくふたりを、行ってらっしゃい と送り出す。
この光景は、彼女にとっては何度も繰り返し見てきたものだ。
そして、“行ってらっしゃい”と送り出したあとは、“おかえりなさい”と出迎える。
それが昔から、当たり前の日常だったのだ。
決してめずらしいことでも、特別なことでもなかった。
ーそう、決して。
ぼんやりとした青白い空から、少しずつ太陽の光が差し込みはじめた。
多くの人がまだ眠りの世界にいる中、ある部屋の一室では、穏やかな世界とは対照的に慌ただしく出発の準備が始まっていた。
あれもこれもと、忙しなく大きなカバンに荷物を詰め込んでいる長身の男性の名はイリヤ。
有名なポケモン研究者だ。
若くしてオーキド博士の元でポケモン研究の道を志す傍らで、ジョウト地方のチャンピオンにも輝いた実力者。
「二刀流のチャンピオン」と呼ばれてその名を馳せたが、夢であったポケモンの研究に打ち込むために、その座をワタルに譲ってチャンピオンを引退した。
バタバタしているイリヤとは正反対に、サングラスも必要かしらねえ、とのんびりした様子を見せている女性の名は、レリア。
彼女も優秀な考古学者として名高い存在である。
古代文字の解読を得意とし、イリヤと共に日々研究に励んでいた。
ふたりがこんなに急いでいるのには、もちろん訳がある。
アローラ地方へ調査に向かうために、朝一の船へ乗らなければならないからだ。
やっと荷造りが終わったのか、これでいいかな、とイリヤが言ったのと同じタイミングに、部屋のドアが開いた。
『お父さま、お母さま、コーヒーを入れたわ』
白い湯気と良い香りが立ち上るコーヒーカップを運んできたのは、16歳の誕生日を迎えたばかりの一人娘のなまえだった。
3人はテーブルを囲んで、熱くもなくぬるくもない ちょうど良い温度で入れられたコーヒーをゆっくり味わいながら、出発までのわずかな時間を楽しんだ。
「アローラに着いたら連絡するわね。お土産は何がいいかしらねえ」
『お母さまったら』
「ちゃんと戸締りをして、火にも気を付けるんだよ。あまり夜遅く出掛けないようにね」
『大丈夫よお父さま。カギはちゃんと3つかけているもの』
優秀な博士である二人は、今やテレビやラジオなどのメディアにも引っ張りだこで、世界のどこに行ってもその名が知れ渡っているが、なまえは一切その姿を見せたことがない。
仕事柄どうしても家を空けることが多かったため、知らないところでなまえが追い掛け回されたり狙われたりしないように、という両親のせめてもの願いであり、最大限の配慮だった。
「じゃあ、行ってくるからね。バクフーン、なまえを頼んだよ」
そう言ってイリヤが頭を撫でると、バクフーンは任せろ、と答えるかのように力強く一鳴きした。
大きなリュックを背負ったふたりを、玄関まで見送る。
『行ってらっしゃい』
さまざまな地方へ出かけていくふたりを、行ってらっしゃい と送り出す。
この光景は、彼女にとっては何度も繰り返し見てきたものだ。
そして、“行ってらっしゃい”と送り出したあとは、“おかえりなさい”と出迎える。
それが昔から、当たり前の日常だったのだ。
決してめずらしいことでも、特別なことでもなかった。
ーそう、決して。