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それから、何日か時は過ぎ。
なまえの体調は順調に回復し、しっかりと歩けるようになっていた。
彼女の回復を喜ぶハートの海賊団の仲間たちに、彼女も心を開き始め、積極的に船内の仕事の手伝いをするようになる。
優しく穏やかななまえはみんなから好かれ、人気者になるのに時間はかからなかった。
夜、船長室で読書をしていたローの耳に、控えめなノックの音が聞こえた。
扉の外にいるのが誰か、彼にはすぐにわかった。
開いてる、と返事を返すと、予想通り外に立っていたのはなまえだった。
その手に持っていたマグカップからは、湯気がゆらゆらとなびいている。
コーヒーを淹れてきたわ、と笑顔で告げる彼女には、初めて会話したときの面影はなかった。
彼女は本当に死ぬつもりだったのだろうかと、時々ふと疑問に思うほど。
その本心はわからないまま。
確かにこの船に馴染んできているが、何も知らないのも事実。
歌姫とハートの海賊団の距離は、まだまだ遠いのが現実だった。
『ローさん』
どうぞ、とコーヒーを差し出した彼女が、改まったように自分の名を呼んだ。
『これ・・覚えているかしら』
彼女が出したのは、水色の石が連なるブレスレット。
それを見たとき、ローの心は大きく震えた。
忘れるわけがない。
「・・・持っていてくれたのか」
やっと返せた言葉に、ベポちゃんがちゃんと取っておいてくれたのよ、と彼女は笑った。
それは、ローがなまえに初めて出逢った時。
ローが彼女に渡したものだった。
まさかまだ、持っていてくれていたとは思わなかった。
心の中の想いとは裏腹に、別に捨ててもよかったんだぞ、とどこまでも可愛げのない言葉しか返すことが出来ない自分に腹が立った。
でも彼女はそんなローに嫌な顔を見せるどころか優しく微笑み、首を横にふった。
『そんなこと出来ないわ。せっかくローさんがプレゼントしてくれたんだもの』
それは素直に嬉しい言葉だったのに、それと同時に心の中に芽生えた小さな嫉妬心は、悪戯にローの邪魔をした。
「お前なら・・プレゼントなんて、いくらでももらえるんじゃないのか」
本来ならば彼女の言葉に喜んで終わりにすれば良かったのに、そんな言葉しか紡げない自分の不甲斐なさを思い知る。
当然のように、なまえは不思議そうに目をぱちぱちさせて自分を見つめていた。
そんな視線に耐えられず、ローはコーヒーを一口飲む。
甘くないコーヒーは、まるで自分の心のようだった。
『またお会いすることがあったら、お返ししようと思っていたんです。ローさんの大切なものかもしれないでしょう?』
彼女は決してローの言葉に怒ることはなく、ただただ優しくそう告げて、部屋から出ていった。
「・・・」
ベポが持っていたということは、おそらく手当てするときに外したのを、保管していたのだろう。
そうなると、彼女はこれを、ずっと着けていてくれていたということだろうか。
彼は決して気まぐれで渡したわけではない。
初めて出逢ったあの時、
忘れてほしくないと思ったのだ。
この広い海では、もう二度と会えないかもしれない。
そう思った時、自分を忘れてほしくないと、強く思った。
テーブルの上に残されたブレスレットは、淡い光を放っている。
彼女に初めて出逢い、このブレスレットを見つけた時、
この石の意味を知った時、ローは迷わず手を伸ばしていた。
素直になれなかったあの時の自分には、これが精一杯だった。
彼女はこの石の意味を、知っているのだろうか。
ローが贈った石の名は、アマゾナイト。
その石の持つ意味は、
“愛する人の視線を吸い寄せる”