人の先入観や思い込み、あるいは固定観念というものは、下手すれば一番厄介で、恐ろしいものなのかもしれない。

先ほどまで一緒に踊っていた女の姿を追いかけて、王宮を飛び出したゾロは、案の定道に迷ってしまっていた。

またナミからきつく説教されるのは十分すぎるほどに解っていたが、今はそんなことなどに構っていられる状況ではなかった。

違和感を感じた自分の勘は、正しかった。

今思い返せば、あの声は間違いなく、彼女だった。

一味にいた頃よりも格段に細くなっていた身体と、仮面のおかげで判断が出来なかったと言えば納得はできる。
けれど、何よりも邪魔をしたのは、自分の先入観だった。

彼女がこんな場所にいるわけがない、
そもそも生きているかもわからない。
もしかしたら、彼女はこの世に存在しないのかもしれないー
そんな勝手な思い込みが、彼女の存在を否定していた。
無意識の内に存在していた、彼の心の奥深くに潜んでいたものを、彼女はいとも容易く、鮮やかに切り裂いていった。
彼女は生きていたのだ、間違いなく。

「なまえ・・・！」

何としても、もう一度会わねばならない。
どうしてこの島にいるのか、今までどうしていたのか、何があったのか。
彼女しか知らない真実を、知らなくてはならないのだ。

ゾロの必死の捜索も虚しく、ついに彼女の姿を見つけることは出来なかった。
祭りのざわめきだけが、ただただ遠く聴こえていた。