“最悪の世代”
世間からそう呼ばれる海賊の１人、
“死の外科医”トラファルガー・ロー。

彼が率いるハートの海賊団は現在、とある島へと上陸していた。
人が住んでいる気配はなく、どうやら無人島のようで、買い出しや酒場に行きたがっていたクルー達はがっくりと肩を落としたが、あまり騒がしい場を好まないローにとっては、人目を気にせずにゆっくり過ごせるありがたい状況だった。

海で遊んだり、釣りをしたりとクルー達が思い思いにのんびりと過ごす中、航海士である白熊ベポは、ひとりで島を散策していた。

樹木が生い茂る森を進むと、船が停泊している場所とは反対側の海岸へと辿り着いた。

太陽の光が波に反射し、海がきらめく。
その景色を、ベポはまるで宝物を見つけた子供のように、嬉しそうに見つめた。

「わぁ・・・」

海の上で過ごす以上は決してめずらしくはない景色だったが、いつ見ても変わらず美しいその光景が、彼は大好きだった。

「あれ？」

美しい景色の中に浮かぶ、何かの違和感を感じて目を見開く。
視線の少し先の波打ち際に、波の動きに合わせて、ゆらゆらと何かが揺れている。
何かが流れ着いてきたのだろうか。
警戒しながらゆっくりと近付くと、その正体を知ったベポの顔色は一瞬にして変わった。

「・・・！！」

波に揺られていたのは、人だった。
長い髪と着ている洋服で、女だとわかった。

「ね、ねえ！君大丈夫！？」

呼び掛けてみるが、返答はない。
ぐったりしている身体と、真っ青を通り越して白くなった、血の気のない顔。

「あれ？ この子・・・」

それは、見覚えのある顔だった。
間違いなく、過去に一度、出会ったことがある。
あれは、いつだったか。

一瞬考えこんだが、こんなことをしている場合ではない。

明らかに一刻を争う事態に、か細く軽い身体を抱き上げると、ベポは急いで来た道を引き返し、走り出した。