178°
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ー最初から、そうだったら良かったのに。
そう思ってしまうのは、どうあがいても、時間を巻き戻すことが出来ないとわかっているからなのだろう。
時間を思い通りに動かすことなど、決して誰にも出来ない。
それは子供でも知っている、この世の理。
船長室には、なんとも言えない空気が流れていた。
問い掛けたローは、なまえの言葉を待っていた。
けれど彼女は、何も語ろうとはしない。
しかし、否定はしない彼女のその姿は、彼の疑問を確信へと変えた。
確実に何かがあったのだ、白ひげの船で。
そして、恐らく彼女は自分が助からないと覚悟もしていたのだろう。
彼女にとっては、流れ着いた島に偶然海賊がいて、なおかつその船の船長は医者で。
偶然に偶然が重なって助かったということすべてが、まったく予期していなかった予想外の展開であった、とでもいえば良いのだろうか。
ローもなまえもお互い喋らず、どのくらいの時間が過ぎたのだろうか。
彼女が小さく息を吸った音が、やけに大きく部屋に響く。
この船に乗っている以上、いつかは話さなければならない。
わかっていた。
それが早いか遅いか、ただそれだけ。
予想はしていたが、賢い彼は、やはり気付くのが想像以上に早かった。
ローはこの船の船長だ。この船に乗っている以上、彼が話せというのならば、従わなければならない。
ただでさえ何が起こるのかわからない海での旅路に、余計な心配事を背負わせるのは決して良いことではない。
きちんと話すべき時なのだと、心の整理がついたとき、部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「なまえ、いるー?」
この声は、ベポの声だ。
なまえが返事を返すと、控えめにドアが開いてベポが顔を出した。
「探したんだよ、ここにいたんだね」
重苦しい空気とは対照的に、にっこり笑った白熊は、はい、と彼女にあるものを渡した。
それが彼女にひどい衝撃を与えるとは、かけらも思っていなかっただろう。
「ずっとオペ室に置いたままだったんだ。早く返さなくてごめんね」
しゅんとする白熊を前に、何も言葉が出てこない。
頭を殴られたような感覚とは、このようなことをいうのだろうか。
「・・なまえ?どうかした?」
不思議そうに首を傾げるベポに、何とか無理やり笑ってみせた。
『・・・ううん、何でもないわ。ありがとう、ベポちゃん』
どうか誰も気付かないでいてほしい。
声が震えていることに。
様子がおかしいのを感じたのか、ベポの心配そうな視線と、後ろにいるローの刺すような視線に耐えきれなくなり、逃げるように部屋を出た。
ローが呼ぶ声がしたが、それに答えられるほどの余裕もなかった。
ベポが渡したのは、彼女の武器である、七色の扇。
それは、2つの可能性を示していた。
それが頭を過ったとき、なまえの瞳から、堰を切ったように涙が流れ落ちた。
それは残酷といえば残酷で、幸運といえば幸運で、だけれどひどく複雑だった。
最初からそうだったなら、どれほど良かったのだろうー
“欲深き者 触れるべからず
力無き者 触れるべからず
闇は光へ 光は闇へ
虹の力を 侮るなかれ
愛の証よ 永久に導け
神に選ばれし 清き者よ”