激震が走った。
今の麦わらの一味の状態を現すならば、そんなところだろう。

兄・・エースからの耳を疑うような凶報に、誰一人として、何も言葉を出すことが出来ない。

信じられない、信じたくない。

世界最強と呼ばれる男・・白ひげが率いる海賊団が、たった一人の幻術師の猛攻に合い、敗北し、ましてや仲間が命を落としたかもしれないなど・・・誰がすぐに納得出来るのだろう。

彼女なら絶対に大丈夫だ、きっとどこかで生きている。
気休めでも、そんな生易しい言葉を発せられるほどの余裕は、誰にもなかった。
誰もが無言で立ちすくんだまま、一体どのくらい時間が過ぎたのだろう。

ついに抑えきれなくなったチョッパーとナミの瞳から、大粒の涙が流れ出した。

エースを責めることも出来ない。
すべての元凶は、彼女が幻術師に狙われ、闇魔術に囚われてしまったことだ。
彼女を守れなかったのは、エースでも白ひげ海賊団でもない。
他ならぬ自分たちなのだと、今になって思い知る。

“お前らに、なまえは救えない”
“己の無力さを思い知れ、モンキー・D・ルフィ”

カイルに言われた言葉が、刃のごとく心に突き刺さる。

どれだけ名を上げても、
どれだけ懸賞金が上がっても、
どれだけ強くなっても、
守りたいものを守れなければ、意味はない。

かつて歌姫は国を守り、永い時を眠り続けた。
なのにー

人の命は、限りあるもの。
それは、この世のすべての命の理。
けれど。

自らの命に決着を付けようとした歌姫は、何を思っていたのだろう。
その真意を知ることは、叶わない。

生きているのか、死んでいるのか。
それすらも、わからない。

「なまえ・・・頼む・・」


生きていてくれ。


もしもこの世界に、神という存在がいたとして、
１つだけ、願いを叶えてくれるのならばー



そんな奇跡を今、心の底から、強く願った。