なぁ、なまえ
おれは単純で無鉄砲だから、
惚れた女が願ったことならば、
何でも叶えてやりたいと、そう願うと思うんだ。


貫いた刃は、深く。
身体から流れる血は、紅く。
ざわめいた潮風は、冷たく。
彼女はそれでも、美しかった。


時は真夜中、寝静まった船。
賑わう時刻は過ぎ、船は静かに海に揺られ、波の音だけが響く中。
長い髪を揺らして、甲板に佇む彼女の姿を見つけたのは、偶然だった。

眠れないのかとそっと声をかけると、彼女は振り向きもせず、小さく頷いた。
その姿は、エースが知っている優しく明るい彼女の姿ではなく、どこか弱々しく見えた。

『ねぇ、エース・・・』

彼女はおれに問いかけた。
私の頼みを、聞いてくれるかと。

「お前の頼みなら、聞いてやるさ。出来ることなら何でも」

仮にも惚れた女だ、
出来ることならば、何でもしてやりたい。
自分を頼ってくれることが嬉しい。
そう思うのは、普通だろう。
嬉しそうに微笑んだ彼女を、一体誰が疑うというのだろうか。

まだ気付いていなかったんだ、何かがおかしいことに。

鈍い痛みが、身体を貫くまでは。

貫いた刃は、深く。
身体から流れる血は、紅く。
海風が、ざわめいた。

彼女は、静かに笑っていた。




『じゃあ、私のために・・・死んでちょうだい』