なまえが案内された部屋は、きちんと整頓され、質素ながらも綺麗な部屋だった。

「すみません、女性がいないもので・・・私と同じ部屋になってしまいますけど、好きに使ってくださいね」

とりあえずソファに腰掛けたなまえの前に、どうぞ、とコーヒーが出された。

そして、どうしてあんな場所にいたのかと訊かれ、なまえはスモーカーに話したことと同じ作り話をする。
親切にしてくれるたしぎを騙すようなことをするのは気が引けたが、こればかりは仕方がない。
失恋した、とのワードを聞くと、たしぎは驚いたような表情を浮かべた。

「もったいない！なまえさんみたいに素敵な女性を、手放してしまう方もいるんですね」

『私は・・・素敵な人間でも何でもありません。さっき、スモーカーさんにも言われましたけど・・・』

昔から素敵だ、綺麗だ、素晴らしいと言われたことはある。
けれど、一体自分の何を見て、何を知って、どこが素敵だと言うのだろう。
疑問には思っていた。

「え？スモーカーさんが？そんなこと言ったんですか？」

『え、ええ・・・』

たしぎはきょとんとしていた。
スモーカーがそんなこと言うのは珍しいらしい。
ずいぶんと驚きを隠せないようだった。

「あさっての夕方には、島に着きます。それまでゆっくりしていてくださいね」

では仕事があるので、と部屋を出ていったたしぎの背中を見送り、なまえはため息をついた。

「ドフィ、怒ってるかしら・・・」

何の連絡もなしに飛び出してしまった。
かと言って、海軍の船の中で彼に連絡する訳にはいかないだろう。
島についてから、連絡するしかない。


これからどうしよう。
次はどこに行こう。
いつまで、こんな生活を送るのだろう。


コーヒーをすすりながら、なまえはぼんやりと窓の外を眺めていた。