何を言われたのか理解するのには、少し時間がかかった。

お互い何も言わずに静寂が続き、どのくらいの時間が経っただろう。
彼は答えを言うまで、決してこの腕を離してくれそうにはない―
それだけは間違いない、何となくだが理解出来ていた。

『・・・ドフィ』

名を呼ぶと、彼女は笑った。
まるで、聖母が惜しみない愛を注ぐような眼差しを向けて。
それはかつて、何不自由ない生活を送っていた子供のころ、
何不自由ない生活を送れていれば、もう少し隣にいてくれたはずの、懐かしい母の面影すら感じさせた。
期待を滲ませたドフラミンゴの唇が、怪しげに弧を描いた。

さぁ、この歌姫は、どんな言葉を紡いでくれるのか。

『私がもし、そう言ったとしても・・・そんな言葉はいらないと、あなたならきっとそう言うわ』

「・・・！」

彼女の唇から零れたのは、予想もしていなかった言葉だった。

そうでしょう？と告げた彼女の表情は、あくまでもどこまでも優しげで。

ドフラミンゴとなまえは、そこまで深くお互いのことをよくは知らない。
期待を裏切るようで、けれど彼にとっては最高の答えを彼女は出したのだ。

あぁ、
やっぱりお前は天才だ。

「フフフ、フッフッフ！」

自然に零れた笑いは、きっと彼の本心だろう。
彼のことをわかっていなければ、絶対に言えないはずの言葉を、彼女はさらりと紡いでみせた。

彼が思っていたよりも、彼女はもっと上を、
もっと自分という人間の裏の部分を、正確に見据えていた。

「なまえ、お前は本当に・・・最高にいい女だ！」

彼女は期待していた以上に心をざわつかせる。
それは、風に煽られる波のように。

「今日の所はお預けだな、なまえ・・・」

悪い男に捕まるなよ、と言い残し、ドフラミンゴは窓から飛び立った。


歌姫にはわかっていたのだ。

今ここで、言われた通りに彼に好きだと告げたとしても、
現実主義の彼にとっては
その言葉が“本物”でなければ、
何の意味も持たないということに。