その島は穏やかな島だった。
日の出の意味を持つアルバ島。
観光地としても人気のこの島は、決して大きくはないものの、各地から訪れる観光客で賑わっていた。
各地からアルバ島へ、アルバ島から各地へ向かう客船は多い。

夕方を迎えた港は、まもなく到着する本日最終の船に乗るためにやって来た大勢の人々で、より一層の賑わいを見せていた。

楽しかった旅行の思い出を嬉しそうに話す人や、次の目的地に向けてガイドブックを読む人、大量のおみやげの袋を抱える人。
それは特別変わったことはない、平和な風景だった。


思い思いに船を待つ人々の列の中に、まるで顔を隠すかのように、可愛らしい花柄のワンピースの上から深々と赤いフードを被った歌姫の姿があること以外は。


扉が開き、並んでいた人々が、ゆっくりと船に乗り込んでゆく。
前の人に続き、歌姫も、船に乗り込む。
目的地も決めず、適当に買った船のチケット。

この船がどこに向かうのか、詳しくはわからない。

けれど、離れなければならない。
白ひげ海賊団から。


もう、自分の居場所はどこにもない―




「なぁ、今日の新聞見たか？」
「見た見た！一面飾ってたな」
「相変わらずすげぇよな！」
「ま、さすがって感じだな！」
「仕方ねぇだろ！なんてったって・・・・」



“麦わらのルフィは、あのエース隊長の弟だぜ？”







彼女が信じていた存在は、
憎き存在の兄だったのだ。





出港の汽笛が鳴る。

その瞬間、歌姫は何を思い、誰を想ったのか。
それを知る者は、誰もいない。