学生が帰宅し、静かな学校の教室内。
初めて顔を合わせたファイは、ようこそ、と穏やかに優しく一味を出迎えてくれた。

「クリストから話は聞いています。そして・・・妻からリンデルのことも聞きました。彼女は確かに私の教え子です。残念ですが・・・」

彼女は優秀な人材だっただけに、一連の流れを知った彼のショックは大きいようだった。

「闇魔術にかけられた方がいると聞きました。結論から言うと・・・解き方は私にもわかりません。長年研究を続けてきましたが・・・資料がとにかく残っていないのです。ですが、知ることはすべてお教えしましょう」

そう言うと、ファイは自分の知ることを事細かに、かつわかりやすく説明してくれた。

闇魔術は、人の記憶を封印することが出来てしまうのが最大の特徴であること。
封印した記憶に偽りの記憶を書き換えることも可能であること。
術をかけられた人間は、かけた人間を主人とみなすため、主人以外の命令には従わなくなること。
しかし、最悪の呪いと呼ばれるこの術を使った本人にも、代償があること。
その代償とは、自らの寿命であること。

術をかけた本人の寿命は短くなってしまう。
ただでさえ病に蝕まれたレイスの身体は、闇魔術の使用によって、さらに寿命を縮めることとなっていたのは間違いがない。
それをすべて知った上での計画となれば、カイルたちが成し遂げようとしていることは、決して脅しや冗談などではなく、本当に世界をひっくり返すつもりだったということだ。
そしてその罪を、なまえにも背負わせるつもりでいる。
それは彼女が世界的な大犯罪者になるということを意味している。
そんなことが許されるはずもない。
カイルの消息はわかっていない。
しかし、仲間を送り込んできたのは事実だ。
全力で阻止するしかない。

「彼女は術にかかってはいるが、仕える主人がいないということになる。そうなれば・・・誰の命令にも従わない可能性が強い。暴走はしないと思いますが・・・闇魔術を使う連中が、何をどんな風に仕掛けてくるかはわからない。とにかく、彼女を敵に渡さないこと。それが彼女を守る一番の方法でしょう」

エースをはじめ、白ひげ海賊団にいる限りは、きっと大丈夫だと信じることしかできないが、敵は彼女の居所を知っていることも確かなのだ。
何とも言えない空気の中、気になることがある、と切り出したのはロビンだった。