煙草の煙が、柔らかい風に揺らいだ。
青空の下、ひとり佇むサンジの金髪も、一歩遅れて風に揺れた。


不思議な夢・・・
なまえの夢を見てから数日、今までの苦しみは嘘のようにぱったりと消え、痛みに襲われることはなかった。
身体は自由を取り戻し、元通りとなった。
長期間の戦いになると覚悟していた仲間たちは安堵の声をあげ、彼の回復を喜んだ。

サンジはあの日の夢を誰にも話すことなく、自分の心の中だけに留めていた。

バカにされることはないだろうが、
でも、それは夢だったのだと、信じてもらえないと思った。
けれどそれは、彼だけが間違いなく知っている本当のこと。
間違いない。


なまえが、助けに来たのだ。


あれは何かの前触れか、ただの偶然だったのか、
本当に夢だったのか、それともただの思い違いか。
苦しむ彼に少しだけ、天が同情でもしてくれたのか。
その真実はわからないが。
あの夢のあとから解放されたのは、紛れもない事実だった。
それを疑う余地はなかった。
優しい声と、あの澄んだ美しい瞳は決して偽りではない。
彼女の心の片隅に、まだ、仲間としての麦わらの一味は、存在しているのだろうか。


おれの呪いを解いたのが彼女だというのなら、
彼女の呪いを解くのは、誰なのだろう。



煙草の煙が風にゆれる。


悪魔にこの身を差し出してもいい。
それで、彼女の呪いが解けるのならば。
彼女が助かるのなら、
おれは、何だってするのに。


君は、おれが助けることを、決して許さないというのか。


この季節には似合わないはずの、冷たい風が吹き抜けた。