だんだん明るくなる空が、世界の夜明けを告げていた。

はっきりしない記憶も、
みんなが何か秘密にしてることも、
この美しい青の中ならば、
何もかもが生まれ変わって、
全部、洗い流してくれそうで。


“人間、誰でも海の子だ”

白ひげはよく、そう言っていた。

―そうね。それなら、いっそのこと。


朝を迎えた白ひげ海賊団の船に響き渡ったのは、
大きな波しぶきの音だった。



透き通るような深い青に包まれて、#ヒロイン＃の身体はふわふわと沈んでいく。

海の中って、こんなに綺麗だったんだ。
世界で最も美しい景色に思える。

今まで起こった出来事も、
よくわからない悩みも、
どこか曖昧な記憶も、

すべて、どうでもよくなってきた。

海の上と、海の中。
それぞれ見える世界も、行いも、何もかもが違う。


このまま、海の中もいいかもしれない。
誰も追いかけては来れないから。


こうして、人は海に還るのね。

人間が生活できない、未知の領域。
決して立ち入ることを許さない、深い世界。


歌姫はゆっくりと目を閉じて、完全に海にその身を委ねていた。