特別な催眠術をかけて、その人の記憶を全て消せば、ほとんどの術は解けるらしい。

「いわゆる命のリセットよ。その人が歩んできた命の歴史を全て消して、何もかもなかったことにするの。それくらいしないと解けない。催眠術も魔術も、遊びで簡単に手を出していいものじゃない」

リンデルはそうきっぱりと言い切った。
安易に使ってはいけないからこそ、昔の人は闇魔術を封印した。
最悪の悪魔の呪いとして、未来永劫、決してこの世に存在してはならないものなのだと。

「記憶を消せば、100％助かるのか？」

ルフィがさらに質問を重ねるが、リンデルは首をかしげるだけだった。

「残念だけど・・・確実に助かるとは言えないわ。前例がないもの。彼女が無事であるかどうかの保障はないわ」

記憶を消しても、助かるかもしれないし、助からないかもしれない。
失敗したら、取り返しがつかなくなってしまう。
それこそ、なまえの記憶はすべて、何もかもなくなってしまう。

「・・・いろいろとありがとう。助かったわ」

しばらくの間の沈黙の中、話を切ったのはロビンだった。

「え、ロビン、もういいのか？」

まだ訊いておくことがないのか、と言うウソップの問いに、ロビンは大丈夫だと笑顔で答えた。

「明日、パパ達の手伝いだから、そろそろ帰るわ。薬も作らなきゃいけないし・・・」

「そう？じゃあ、今お菓子を包むわ。ちょっと待ってて」

エミーラは席を立つと、おみやげ用に、せっせとお菓子を包み始めた。

「闇魔術の使用は大罪で、問答無用で海底監獄行きだと聞いたことはあるわ」

「問答無用で海底監獄行きですか・・・」

それほど恐ろしいものなのだと、彼女は言い切った。


絶対に助けられる方法はない。
暗い雰囲気が流れる中、まだ決まった訳じゃない、と声を上げたのはルフィだった。
まだ博士から話を聞いていないのだ、 確率は低くても、まだすべての可能性が消えた訳ではない。

「主人は明日帰ってくるはずよ。少しでも力になれればいいけど・・」

ファイが帰って来るのは、明日。


「おれはなまえのばあちゃんに約束したんだ、絶対に守るって。エースだって守ってくれる。だから、絶対に助ける！」

船長の強い言葉に、仲間たちも応えるように頷いた。

穏やかで平和な時間が流れる草原の家を見つめる暗い影に、誰ひとり気付くものはいなかった。