伸ばしたその手は蒼き世界へ

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ロットの引く馬たちに乗せて貰い、どのくらい時間が過ぎたのだろうか。
空は次第に赤く染まり、暑さも和らいだころ、とても大きな、立派な家が見えてきた。

「エミーラさーん!宅配だよー!」

ロットがドアを叩くと、ドアが開いた。

遠いのにいつもありがとう、とロットを出迎えたのは、かわいらしいカントリードレスを着て眼鏡をかけた、見るからに穏やかそうな老婦人だった。

「それと、お客さんだってよ!」

「あら、お客さま?」

予想外の大人数の来客に驚いたものの、 ようこそ、と歓迎し、お茶を淹れるから中へ入って、と微笑む夫人の声は、まるで太陽のような暖かさを含んでいた。

広いキッチンに、あっという間にお茶とたくさんのおやつが並ぶ。

召し上がれ、と告げると、ルフィはさっそくケーキにかぶりついた。
この山でしか採れないハーブのお茶に、木の実がたっぷり入ったケーキとクッキーは、疲れた身体にはありがたすぎるご馳走だった。

一通りお茶をご馳走になったところで、クリストから話を聞いてファイを訪ねたことを告げると、エミーラは困ったわ、と眉をひそめた。

「主人に用があったのね。ごめんなさい、主人は街の学校へ授業に行っているの。月に一度、1週間だけ行くのよ。帰ってくるのは明後日になってしまうの・・・。わざわざ来てくださったのに・・・ごめんなさいね」

目的地にはたどり着いたものの、タイミングが悪かったようだ。
がっかりした様子に、よほど急ぎの用事があると思ったのか、そういえば、とエミーラが話を切り出した。

「明日、本を届けに主人の教え子が来るのよ。その子に訊いてみたらどうかしら?何か知ってるかもしれないわ」

ファイの教え子は、医者の家系の生まれで、催眠術を学びに来ていたらしい。
医者がなぜ催眠術を使うのかと、チョッパーが思わず聞き返した。
医者にはあまり関連性のないように思える術。
疑問に思うのも不思議ではない。

「麻酔を射たなくても、患者さんを眠らせる方法がないかってね。そうすれば、痛い思いをしなくていいからって。とってもいい子だから、会うといいわ。」

さすがのチョッパーにも、催眠術を医療に使う発想はなかった。

「とりあえず、家でゆっくりしていきなさい。その人数じゃ狭いかもしれないけれど…部屋はいくつかあるから泊まっていって。主人が帰ってくるまで、草原でゆっくりしていきなさいな」

町に戻るしかないと思っていた一味にとって、それは親切な申し出だった。
ありがたく甘えることにした一味は、緑豊かな山でしばらく過ごすこととなった。



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