誰かの気配を感じ、甲板で寝ていたゾロは目を覚ました。
まだ真夜中。空も暗い。
そんな中で、確実に仲間たちとは違う別人の気配が、かすかにした。
こんな時間に海賊船に侵入するなど、並大抵の人間のすることではない。
見えない相手に、ゾロは警戒心を一気に高める。
そんな百戦錬磨の剣士の最大にまで引き上げられた警戒の色は、数秒後に崩れ落ちることになる。

“ゾロ”

透き通るような、綺麗な声に名を呼ばれた。
この声の持ち主は、彼の記憶の中ではひとりしかいない。

まさか、と思って振り返った先、
立っていた人物に、ゾロは自分の目を疑った。

雪のように白い肌。
さらさらと風に踊る、ピーチブラウンの髪。
控えめで、気品を感じさせる美しい姿。

「なまえ・・・！？」

その姿は間違いなく、なまえだった。

夢でも見ているのだろうか。
常に冷静なゾロでも、さすがにこの状況に驚きを隠せなかった。
そんな彼に優しい微笑みを向けるその姿は、間違いなくなまえだった。


どうやって来た？
なぜここにいる？
いつからいた？
気配はなまえのだったのか？
彼女が目の前にいる現実と、次々に思い浮かぶ疑問に頭は混乱するばかり。

『会いたかったの、ゾロ。あなたに・・』

そんなゾロの困惑を払うかのように、なまえは甘えるような声で囁くと、そっと抱き着いた。

「お、おい・・・」

鍛え上げられたゾロの鋼のような身体に、しっとりとしたなまえの柔らかい身体が預けられる。

『また会えて嬉しいわ・・・』

なまえの声を聴くたびに、まるで頭の中が痺れるような感覚に襲われる。
彼女のどこか寂しげで、熱を持ったような、とろりとした瞳に見つめられると、さすがのゾロも冷静を保ってはいられなかった。

訊きたいことは山ほどあるはずなのに、なまえの髪からふんわりと漂う甘く色っぽい香りに、頭が回らない。
その時、彼女の身体が異常に冷たいことに気付く。
気温は低くはないはずなのに、なぜこんなに冷えているのだろう。

『夜の潮風はとても冷たいのね・・・』

そう言って少し身震いしたなまえの細い身体を、潮風からかばうように抱き締めた。