それは、ある真夜中の出来事だった。

「サンジ君・・・」

次の目的地、レッシュ島へと向かうサニー号の中で、弱々しい声が、眠っていたサンジの耳に届いた。
夢なのか現実なのかもはっきりしない、ぼんやりとした意識の中でうっすらと目を開けると、見慣れた景色が視界に映った。
どうやら自分はキッチンで用事を済ませて、そのまま眠ってしまったらしい。

誰よりも朝が早く、しかも１日の半分以上をキッチンで過ごすサンジには、決してめずらしくはない話だった。

「誰だ・・・？」

彼がそう疑問をこぼしたのは、何かがいつもと違ったからだ。
こんな時間に自分を起こしてくるのは、食べ物をねだるルフィぐらいだが、その起こし方はこんなにおとなしいものではない。

自分が寝ぼけているだけで、夢か聞き間違いだったのだろうともう一度目を閉じた彼の耳に、今度ははっきりと声が届いた。

『サンジ君・・・』

それは、聞き覚えのある声だった。
しっとりとした優しい声に、彼は激しく動揺した。

そんな、まさか。

なぜ・・・？

この状況が理解できない。そんな困惑を破るかのように、
サンジの目の前に、ここにはいないはずの姿があった。

「なまえちゃん・・・？」


そこにいたのは、彼がずっと心配していた、美しい歌姫。
優しく穏やかな表情を浮かべたなまえが、静かに立っていた。