「これが15憶の首か・・・！！」

大勢の海軍が、たった数人の麦わらの一味に、明らかに押されていた。
白熱するその戦いを、レイスは目を輝かせて見ていた。
それはまるで子供が新しいおもちゃを貰ったときのような、ショーを観に来た観客のような、どこか他人事のように楽しんでいた。

ずっと見ていたい、面白くて仕方がない。
熱狂するこの場が、楽しくて仕方がない。
高揚する彼のもとに拳が飛んできたのは、その数秒後のことだった。

「なまえは何処だ！！」

不意打ちで打ち込まれたルフィの怒りの一撃に、レイスの身体は吹き飛ばされる。
激しい怒りの色を見せるルフィに対し、壁に叩き付けられたレイスは苦しそうにしながらも、薄ら笑いを浮かべる。

「なまえを取り返しても・・・もうお前たちが知っているなまえじゃないかもしれないぜ・・・？」

勝ち誇った、一本先を取られた、そんな単純な言葉では言い表せないが、しかし何か嫌な結末を思わせる発言に、一味には緊張感と焦りが走った。

「お前、なまえちゃんに何をした！？」

「会えばわかるさ・・・」

幼い頃から様々な状況を潜り抜け、人の顔色や声色を窺って生きてきたロビンは、レイスの言葉が決して脅しや冗談ではないこと、そしてその笑いが意味すること・・・
なまえの身に何かが確実に起こっていることを悟った。

「ふざけんな！！」

サンジの怒鳴り声と共に繰り出された強烈な足技は、レイスの身体をさらに吹き飛ばす。
そんな状況でも、彼はまったく取り乱すこともなかった。

「俺を倒せば・・・後々後悔するのはお前たちだぜ・・・？」

言葉こそ挑発めいているが、レイスは抵抗する様子は一切見せない。

「自分から仕掛けておいて、また命乞いか？つくづくみっともない真似しやがって・・・」

往生際の悪い言葉を嫌うゾロが返した厳しい言葉に、レイスは力なく笑った。

「命乞いなんてする価値も意味もない。俺の役目はここで終わりだ・・・」

もう十分だ、と諦めたように言葉を零すと、レイスは大量の血を吐いて、崩れるように倒れた。

「おいお前、まさか・・・！！」

その様子に異変を感じたチョッパーが、すぐに駆け寄る。

苦しそうな呼吸に、止まらない吐血。
どう見てもおかしいその様子は、徒事ではない。

「お前、何でこんなになるまで・・・！！」

「もういいんだ、早かれ遅かれ、俺はこうなってた・・・」

彼の表情に迷いはなかった。
真っ赤な血とともに穏やかな表情を浮かべて、レイスは深い眠りへと落ちていく。


それは覚めることのない、永遠の眠りだった。