「味覚障害だ」

次の日の朝。
サンジから事情を聴き、朝一でなまえの診察をしていたチョッパーが、キッチンへと戻って来た。
診断結果はその名の通り、味覚に障害が出るものだった。

「じゃあ、なまえさんが最近あまり食べていなかったのは・・・」

ブルックの言葉に、チョッパーはこくんと頷いた。

いろいろ検査した結果、何処か身体が悪いわけではない。
精神的なものが原因ではないかとチョッパーは結論を出した。
ただでさえいろいろあったのだ。
立て続けに起こった出来事に身体だけでなく、精神的にも疲れが溜まっていたといってもおかしくはない。
ルフィ達は海の上での生活は長く慣れているが、なまえはそうではない。
彼女にとっては、自分が思っていた以上に負担だったのだろう。

とにかく、しばらく様子を見てみるしかなかった。
あまりにも食べなければ点滴をしなければいけないが、むやみやたらに薬を使うよりも、自然回復の方がいいのは明らかだった。
次の島は、観光でも有名なリゾート地らしい。
しばらくゆっくり休みましょ、とのナミの提案に、皆が頷いた。

そんな会話がされる中、なまえはひとり、甲板で海を眺めていた。

いきなり味覚障害と言われて驚きはしたものの、重い病気ではないと知って逆に安心したのも事実だった。
しかし、食べない訳にはいかない。
いつ島に着くかわからない海の上での生活で、きちんと栄養を摂らないのは命に関わる事態だ。
サンジへの罪悪感も、完全に無くなった訳ではなかった。

ホーキンスの言っていた災いとは、この事だったのだろうか。

『考えても、仕方ないか』

考えたって、治る訳じゃない。
あまり気にしすぎない方がいいと、チョッパーにも言われたのだ。

「なまえちゃん」

ぼんやりと海を見ているなまえに、サンジが優しく呼びかける。

「とりあえず、みんな待ってるからおいで？」

多分サンジだけではなく、チョッパーから聴いて、すでに全員知っているだろう。

『うん』

どこまでも優しい彼に申し訳ない気持ちばかりが積み重なる。
これ以上、仲間たちに心配させる訳にはいかない。
笑顔で返事をすると、ふたりはキッチンへ向かった。