予定通りに島を出航し、今日ものんびりと海の上を進むサニー号。
鮮やかな夕日は沈みかけ、もう夜を迎えようとしていた。

ルフィとチョッパーとウソップは、バタバタと甲板で鬼ごっこをしていた。
わいわい騒ぐルフィたちを見て、本当に元気よね、と呆れたようにナミが言うと、ロビンは賑やかでいいじゃない、と笑顔を浮かべた。

そんな光景を横目に、なまえはひとり楽譜を書いていた。

ルフィはどこか難しい顔をしてペンを走らせるなまえの背後にそっと近づき、後ろから彼女を思いっきり抱き締めた。

『きゃあっ！』

「しししっ！捕まえた！！」

突然の衝撃に驚くなまえに対して、満面の笑みで嬉しそうに言うルフィを見た瞬間、黒いオーラを纏ったサンジが鬼のような形相をして、疾風の如く飛び出して来た。

「ルフィ！誰の許可を得てなまえちゃんを抱き締めてんだ！！」

サンジの怒鳴り声にもひるむことなく、ルフィは笑顔で返した。

「だってよぉ、最近、なまえ元気ねぇじゃねぇか」

『・・・！』

ルフィは本当に世間をにぎわせる億超えの賞金首なのかと思うほど子供っぽいのに、こういう時だけ鋭いのだ。
気付かれないように必死に過ごしてきたのに、なぜこうも簡単にわかってしまうのだろう。

『あ、あんまり・・・曲が上手に作れないの・・』

「そういう時もありますよ。あまり考えないで、ゆっくりするのが一番です」

とっさの嘘にも優しく言葉を返してくれたブルックに、申し訳ない気持ちが込み上げた。


始めて、サンジの料理をまずいと感じたあの日。

ただの偶然だと思っていた。
そうであって、欲しかった。

しかし、何度食べても、とにかくまずい。
みんなは何も言わずに普通に食べている。
何が原因なのか、全くわからない。
おかしいのは、自分だけなのだ。

最初の内は我慢して頑張って食べていたものの、それも限界だった。
最近はお腹が空いてない、などと適当にごまかして、ルフィやチョッパーに食べてもらっていた。

今のなまえにとっては、食べる事が苦痛でしかない。
申し訳ない気持ちから、サンジを避けるようになった。
必要最低限の時以外は女部屋から出ず、気晴らしにずっと曲を作ってみても、そんな状態でいい曲が作れる訳がない。
わかっていても、そうするしかなかった。
とにかくみんなにはバレないように、極力仲間とは顔を合わせずに過ごすようにしていた。

「まったく・・・そろそろ飯だぞ」

サンジのその言葉が、胸に突き刺さる。
もう、そんな時間になってしまったのか。
気が乗らないままキッチンへ向かうと、テーブルの上には、お皿に綺麗に盛り付けられた彩り豊かな料理が並んでいた。

美味しそうに頬張るルフィを横目に、嫌な予感を感じながらなまえも食べ始めたものの、

『っ・・・』

やはり結果は予想通りだった。
少し口にしただけなのに、まずい。
何とか頑張って食べようとするも、それ以上は無理だった。

『ルフィ、食べる？』

フォークを置いて、どうぞ、とルフィに皿を差し出すと、ルフィは目を輝かせて遠慮なしに食べ始める。

「なまえちゃん、もしかして苦手だった？」

『お腹空いてないの・・・ごめんね』

「じゃあ、デザート用意しようか？ 」

『ううん、大丈夫よ。・・・私、先に部屋に戻るね』

この場から、一刻も早く立ち去りたい。
疲れちゃったみたい、と言葉を残して、なまえは逃げるようにキッチンを出ていった。

「なまえ、最近変じゃないか？」

「何かあったのかしら」

「・・・」

仲間たちも、なまえの異変に薄々気付き始めていた。