その日の夜のこと。

いつも通りキッチンにやって来て、それぞれの席についた一味の前に、サンジ特製の夕食が並べられていく。
彼の料理は見た目も味もいつも完璧だ。

美味しい食事はただ食べるだけでなく、仲間全員が楽しい時間を共有出来る貴重な時間でもあった。

美味しい美味しいと口を揃えて褒め称える仲間たちに対して、当たり前だろ、と答えるサンジ。
その一言は、彼が料理に対して絶対の自信があることを示している。

いつもながら飛び交う絶賛の声に、なまえも料理を口に運んだ。

彼の料理はいつも美味しい。
不味かったことなど、ただの一度もない。
が。

『・・・！？』

今回ばかりは、何かが違った。

料理を口に入れた途端、なまえは思わず戻してしまいそうになった。

(何、これ・・・)

呆然と目の前の料理を見つめる。
特別何も変わったことなど何もない。
いつもの美味しそうな料理だ。

「サンジ、おかわり！」

おかわりを貰おうと、ルフィは皿を差し出す。
もう何杯目になることだろうか。
なまえと出掛けた時に再三食べたというのに、計り知れないその食欲は驚きを通り越して感心する。
もう少し味わって食え！と怒りながらも、サンジはおかわりをよそってあげている。

みんなはいつも通り、美味しそうに食べている。
何もおかしいことなど、ない。

『・・・・・』

「なまえちゃん、どうかした？」

フォークを持ったまま固まってしまっているなまえの様子に気付いたサンジが、不思議そうに声を掛ける。

『えっ・・・』

「もしかして、口に合わなかったかな」

心配そうな表情で問い掛ける彼に悟られることがないよう、平静を装って笑顔を作った。

『ううん、そんなことない』

サンジは、こういうところに鋭いのだ。
なんとか笑顔で答えたつもりだったが、きちんと笑えていただろうか。
そう、と返しただけでそれ以上のことは聞かれなかったのが幸いだ。


『・・・・・』


楽しそうな仲間を前に、
作ってくれた心優しき料理人を前に、
言える訳がない。


美味しくないだなんて。


みんなは普通に食べているのだ、きっと偶然だろう。
もしかしたら、何か変わった調味料を使っていたのかもしれない。

言葉こそかけないが、なまえの様子が気になるのか、時折心配そうに自分を見つめるサンジの視線がひどく痛い。
そんな彼の前で残す訳にはいかず、なまえは頑張って食べ続けるしかなかった。