ここはとある街。
昼間、人手も多くにぎやかな街は、別の意味でざわついていた。
街の住人たちは、歩いている集団の姿を見るや、顔を青くして早々に立ち去っていく。

その原因となっているであろう集団は、そんなことは日常茶飯事、慣れたものだとおかまいなしに、細身の青年を先頭に視線を気にすることなく歩いていく。

青年の身体には、派手に大きく刻まれた刺青、
頭には、その鋭い目つきからはどこかアンバランスなもこもこのファーの帽子。
目の下には、まるでアイラインでも書いているのかと思わせるほどのクマ、
そしてその横には、ツナギを着ているクマ。


それは今や有名な新星として名高い海賊、ハートの海賊団だった。

船長のローは、部下とともに買い出しに出ていた。
大量の荷物を抱え、一度船に戻ろうとしていたところだった。

停泊させている海岸に着いたとき、白熊の耳は何かを聞き取った。

「あれ？何か聞こえない？」

ローたちにはすぐにはわからなかったが、さすがは熊。
人間と違い、やはり聴覚は長けているようだ。
しかし、街からは距離がある人気のない場所をわざわざ選んで停泊させたのだ、何かの聞き違いか勘違いだろうと流そうとしたが、確かに微かに何かが聞こえてくる。

「歌・・・？」


まるで導かれるように、その声のする方へと、足を進める。


浜辺で、海に向かって歌を奏でる女の姿があった。
長いピーチブラウンの髪とアイボリーのワンピースが、潮風に揺れていた。

その姿を足を止めて見つめ、
その声に耳を傾ける。


「この曲は・・・」


彼には、聞き覚えがあった。
そう、それは、
今は無き、故郷の・・・




“静かに舞うは 細雪
白の輝き 大地を染める
その静けさに 耳をすませば
冱つる世界に 導かれ
星に燿るは 夢の兆しよ
花咲くときは もうすぐと
雪解けを待つ あなたと共に”