サンジが大怪我をしてから、１日が終わろうとしていた。
麦わらの一味は出航を止め、サンジの回復を待っていたが、まだ彼の意識は戻らないまま。

なまえはチョッパーと交代で、サンジの看病をしていた。

傷だらけの身体には包帯が何十にも巻いてあり、腕には点滴の針。
熱も下がらないままだった。


あの時、自分がもっとちゃんと引き止めていれば。
こんな事にはならなかったのだろうか。

料理人の命と言われる両手も、傷だらけになってしまっていた。
なまえの気持ちを察して、気にするなとみんなが言ってくれるものの、そう思わずにはいられなかった。


海賊、ましてや賞金首である以上、命の保証はない。
それは頭ではわかってはいた。
でも、あの時自分が引き止めていたら。
彼がこんな目に合う必要はなかったのかもしれない。
回避出来たかもしれないのだと思うと、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。


“大きな災いが近付いている”


ホーキンスの言葉が、少なからず不安に拍車をかけていたのも事実だった。
ずっと引っ掛かっていた。

このタイミングでこんな事が起こったのだ、
信じる信じない以前に、気になるのは当然だった。

ホーキンスは、こうなる事を見抜いていたのだろうか?


あれは、なまえに向けて言ったのか、サンジに向けて言った言葉だったのか。
ホーキンスは単独行動や目立つような事は避けた方がいいとも言っていた。
サンジの単独行動がいけなかったというのか。

どちらにせよ、彼は冗談で言っているような雰囲気ではなかった。
冗談で言える内容でもないだろう。
しかも彼は、初対面でなまえにそう言ったのだ。

サンジへの後悔の思いとホーキンスの言葉は、なまえの心をひどく揺らすには十分すぎた。

もしかしたら、また何か起こるのではないか。

そんな不安を抱えて過ごす日々は、重い。

包帯を巻かれた両手を見ると、本当に申し訳ない気持ちばかりが募っていった。




ロビンとフランキーは町の人に聞き込みをしたりして調べていたが、判明したのはサンジが買い物をした店だけ。

それ以外は全くと言っていいほど、情報は何もなかった。

どうして何もわからないのかと、ナミが焦ったような声を出す。
そう言うのも当然だった。

栄えていない島だったならまだしも、島は栄えているし、町には活気もある。
サンジが買い物をした場所は町の中心部で、人も多い。
多少の目撃情報などはあってもいいはずなのだ。
変ですね、とブルックがため息をついた。

「真夜中だったならともかく。状況的に考えれば、誰か１人ぐらい見ていたっておかしくないはずなのに」

おまけに、島の治安は良い方だ。
話を聞いた町の人達は、そんな事があったのかと、逆に驚いていたぐらいだった。

「あの状況で誰も見てないなんて、本当に有り得るのか？」

「“普通なら”ほぼあり得ない話だ」

ウソップの率直な疑問に、フランキーは普通というワードを強調して答えを返した。
この状況が普通ではない事は明白だった。
怪我を負わせただけで、満足したのだろうか。
賞金首であるにも関わらず、海軍に引き渡しもしない。
あまりにも、不可解な点が多すぎる。
ここまで何も情報がないと、動くにも動けない。


「俺達がここでごちゃごちゃ言ってても仕方ねェ。詳しい話は、本人に訊くしかないだろ」


厳しく聞こえるが、ゾロの言葉は最もだった。
一体、サンジに何があったのか。
それは、本人にしか分からない。

今の状況では、サンジが目を覚ますのをひたすら待つしかない。
何もわからないもどかしさは、複雑な心境へと皆を誘い込んでいく。