１０年前ー

ひとりの女性が、命を落とした。

彼女の名前は、ティナ。
マーサの娘であり、なまえの実の母だった。
彼女も選ばれし者であり、虹神の力の使い手であった。
それをどこからか聞き付けてきた者がティナを狙って、ジュエル島に攻め込んできた。
虹神の力を使ってティナは島を守ったが、その時に受けた深傷で、数日後に命を落としてしまったのだ。
なまえの父メルカも、この事件がきっかけで体調を崩し、数年後にこの世を去った。

虹神の力の正式名称は、《セプトクルール》。
かつて何人もの人間が、この力を狙って島に攻め込んだ。
しかし、扇に触れることが出来るのは、力を使える《選ばれし者》のみ。
そのため、選ばれし者を誘拐しようとする事件が後を立たなかった。
一族は身を守るため、《セプトクルール》の名前を出すことを固く禁じた。
その正式名称を知る者は言葉を知る者は、一族以外には存在しないはずなのだ。

どこから情報を得たのかはわからないが、敵はかなり情報を持っている。

形は違えど、海兵たちもなまえの力を狙っていることは間違いがない。
そうなれば、１０年前の二の舞になってしまう。

「時間がないわ、早く逃げないと！」

明らかに悪い状況に、とにかく逃げましょう、となまえに持ち掛けたナミを制したのはゾロだった。

「逃げるといっても、宛てはあるのか？敵は砲撃の準備はとっくに済ませているはずだ。約束通りに姿を見せなかったら、いきなり仕掛けてくる可能性もある。そうなったら島の住民たちはどうなる」

的を得ているゾロの意見に、皆が黙り込んでしまった。

それこそが、今回の最大の難関だった。

約束の時間まで、あと１時間ほどしかない。
なまえが姿を見せなければ、相手は何を仕掛けてくるかわからない。
しかし、その短時間で島民全員を避難させることなど、間違いなく不可能だ。
予想以上に難しい局面に立たされていることを、改めて思い知らされる。

こうしている間にも、時間は刻々と迫ってくる。
なまえも、島民も、誰一人犠牲にするわけにはいかない。
焦りと不安だけが独り歩きする中、“おれに策がある”とサンジが切り出した。

もう迷っている時間はない。


タイムリミットまで、残り１時間。