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6 ボーンとハンゾウとデーモンシード

「いやあ、久しぶりだね」

 ボーンは与那国島の一隅に降り立つや、嬉しげに周囲を見渡した。
 暖かい空気、まばゆく青い海、南国特有の匂い、全てに覚えがある。

「お前はあの火事場のクソ力修練の時、沖縄に来たんだもんなあ~っ!! 懐かしいだろうよ~っ!」

 隣に並んだフォークがボーンを揶揄する。

 二人の眼下には、きらきら光る海が広がっている。
 人目につかない高台を見つけられたのは好都合だった。
 とりあえず、目立たぬように、状況の把握に努める。

 この下の海の底に、正体不明の海底遺跡らしきものが眠っていると話題になったのは、はて何年前だったか。
 人工物か自然の悪戯の結果に過ぎないのかの論争に、まだ明白な決着はついていなかったはずだ。

「ここにサタンがいるってのか? 俺にはただの海にしか見えねえがなあ……どうした、ボーン?」

 フォークは、うつむいてしまったボーンに問いかけた。

 ボーンは奇妙な感覚を味わっている最中である。
 カシドゥアの神像に近付いた時にやや似ているが、あの時とは違い、凍りつきそうな嫌悪感が伴う。

 奴だ。

 ボーンは確信する。
 嫌悪を抑えて、魔力を感じ取る能力を発動する。
 底なしに重苦しく、邪悪な波動は、明らかに海底から発せられていた。
 一見鮮やかな青い海に似つかわしくない、冷たく、湿って、どんよりと穢れた波動の強大すぎる魔力は、生身の超人のそれではあり得ない。

 と、何かの異変を感じて、ボーンは伏せていた顔を上げた。

「おい、何だ!? ありゃあ?」

 フォークが怪訝そうに叫ぶ。

 いきなり海原を割って、きらきらした塊が6つ、花火のように八方に飛び散った行く。

 ボーンの隻眼には、それが200カラット以上もありそうなダイヤモンドだと、はっきり映し出された。
 しかもただのダイヤモンドではない。
 手で触れたら汚れそうな、強大な負の魔力を帯びている。

 ボーンとフォークが見据える先で、ダイヤモンドは宙を飛び、そのまま、ふっと空に溶け込むように消えた。
 魔力を読んだボーンには、空間を転移したのだと識別できる。

「一体、今のは何なんだよ!? 海から、なんか宝石みてえなのが突然……」

 フォークには何が起こったのかさっぱりわからず、混乱させられるばかりだ。

「あれはサタンが生み出したモンで間違いねえ……。いよいよ奴が本格的に動き出したみてえだな」

 ボーンは葉巻を取り出し、火を点けた。
 目は、ダイヤモンドが消えた空に向いている。

「サタンが!? あれは一体何だ、ボーン!? サタンは何をしようとしてるってんだ!?」

 フォークが目を白黒させながら喚く。
 ボーンは薄く笑った。

「あれはサタンの魔力を凝集したもので間違いないと思うぜ。宝石の形にしてあるのは、カシドゥアの力を利用しているからだろうな。目的が何かは、現時点ではハッキリとはわからねえが、まあ、良からぬことだろうな……」

 ボーンはバッファローマンの話を思い出す。
 悪魔の闘技場、ジェネラルパラスト。
 ひょっとして、ここがそうなのかね?

 ボーンは海原に視線を戻した。
 南国特有の青の下に眠る、神秘の遺跡を見通すように。

「しばらく、海底遺跡の監視を続けるぜ、フォーク。俺、とりあえず、海底遺跡のところまで潜ってみるわ」

 ボーンは浜辺に向かって歩き出す。

「お、おい、ボーン……」

「フォーク、お前は浜で待っててくれ。お前、体の構造上、泳ぐの苦手だろ? その代わり、周囲に不審な奴が近づいて来ねえか、警戒しててくれ。この様子じゃ、何があるかわかったもんじゃねえ」

 真上から太陽がぎらつく。
 ボーンは目映い海に向かって歩を進めた。
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