~東の神子姫~

―王都の東門ネグリート―

 ようやく王都と地続きになったかと思えば、そこはズラリと並んだ頑強な塀に阻まれていた。
 こちら側から行くには、ネグリート砦にある門を通る必要があるのだ。

「これは……物々しいな」
「橋が壊されてしまった今ではここが唯一の王都への道になる。出入りも激しくなっているだろう」

 実際、門を見ると大勢の人が詰め掛けていた。

 その中に、一人。

「開門出来ないのですか?……どうして?」

 ターコイズブルーの大きな目にゴールデンイエローのふわりとした短い髪。
 異国の衣装だろうか、ヴェールを身に着け大きな杖を携えた、変わった格好の少女が門番に詰め寄っていた。

「そうは言われましても……今は門を開けるには危険な状態なのです」
「そんな……こんな所で足止めをくう訳には……」

 少女が俯くと、杖についた鳴子がシャラン、と音を立てる。

「騒ぎがおさまればすぐ開門しますから……」
「…………」

 可憐な少女の困り果てた顔に門番は慌てて慰める。

 が、少女はキッと見上げて、

「騒ぎとは何ですか?……わたしが解決してきます」
「えぇぇ!?……そんな、ホントに危ないですよ!」

 どうやら本気で急いでいるらしい少女の目には揺るぎない決心が見えて、門番の騎士をたじろがせる。

 しばらく傍観していた一行だったが、そこまで見て少女の方に近寄った。

「随分急ぎのようじゃな。どうしたんじゃ?」
「貴女は?」
「わしはミレニアじゃ。こっちのデューってちびっこの記憶を取り戻す旅をしておる」

 ミレニアの言葉に「誰がちびっこだ……」と内心で呟くデュー。
 だが表立って口にする程彼は子供ではなかった。

「あ、わたしはフィノ……フィノ・シャンティです。ジャンドゥーヤから王都を目指してやって来ました」

 ぺこり、と丁寧に頭を下げるフィノ。
 確か東の大陸の名前だったか、とデューは地図を頭に描いた。

「貴女、もしかしてジャンドゥーヤの神子姫さんかしら?」
「ミコヒメ?」
「ジャンドゥーヤに代々続く一族だ」

 イシェルナの言葉に聞き慣れない単語を見つけたデューにオグマが説明を始める。

「未来を予知出来ると言われているが……いつの間にか代替わりしていたか」
「そんな大したものじゃあ……ちょっとした占いみたいなものですよ。特にわたしはまだ未熟で……」

 けど、とフィノの表情が曇る。

「母は……先代の神子姫は占いの最中に何か恐ろしい未来を視てしまったらしく、そのまま寝込んでしまいました」
「ちょっとした占い、にしては物騒な話じゃの」
「普段はそこまでの光景は視えないんです。例えばこれからのお天気とか、何に気をつけたら良いかとかがぼんやりと」

 フィノの説明にミレニアが「ふむふむ」と相槌をうつ。
 聞いている限り、その先代の神子姫が視たという内容が彼女の急ぐ理由なのだろう。

「母が何を視たのか、わたしにはわかりませんが……それでもハッキリと嫌な予感がします。一刻も早く王都へ行かなくては……」
「という事じゃ。何とか通しては貰えないかの?」

 ミレニアが尋ねるが門番は首を横に振る。

「そ……そう言われても……」
「何がこの門を閉ざしている原因なんだ?」

 今度はオグマが、門番に一歩進み出た。

「今は危険だ、騒ぎがおさまれば……というのは内容が不明瞭だ。わかるように話してくれ。この子も、集まっている人々も不安がっている」
「は……はいっ!」

 門番は背筋をピシリと伸ばし、オグマに向かって敬礼をする。
 が、直後首を傾げて、

「……って、貴方は?」
「昔騎士だった者だ。いいから続きを……簡潔にな」
「はいっ!」

 条件反射のように従う騎士をぽかんと見つめる一行。

「最初ビクビクしてたのがウソみたいね……」
「騎士時代はあんな感じだったのかもな」

 凛とした姿はどちらかと言うと戦っている時のそれに近い。

「こうしてるとホントにイケメンさんねぇ♪……そう思わない? フィノちゃん☆」
「は、はぁ……」

 なんて、初対面のフィノに振っても彼女は唖然とするばかりだった。
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