~交わりの街で~

 小屋での休息もそこそこに出発すると、次の目的地まではそれほどかからなかった。

「でかいな……」
「シブースト村と比べちゃいかん。あっちが小さいんじゃ」

―交わりの街アセンブル―

 シブーストとは打って変わって行き交う人々で賑わうそこはなかなかの活気があった。

「ここは港町と王都の間にあるからの、両方から人や物が集まる」
「だから交わりの街、か……」
「何か珍しいモノがあるかものぅ?」

 何はともあれ、動かない事には話は進まない。
 二人は人の流れに混ざるように足を踏み入れる。
 石造りの歩道は土とは違う感触を伝えた。

「……しかし、手掛かりを探すと言ってもどうやって?」
「そうじゃのぅ、往来の真ん中で『すみません、この子の事知りませんかー?』とか叫べばいいんじゃないかの?」

 それを聞いたデューは思いっきり眉をひそめた。

「なんじゃ、嫌そうな顔しおって。言っとくがそのぐらいせんと何も見つからんぞ~?」
「……もう少しやり方があるだろう」
「ほう、例えば?」

 言うだけ言ってみたものの、良い案がある訳でもないデューは言葉に詰まる。

「うぐ……それは……」
「あらん、可愛らしいカップルさんねぇ☆」

 突然聞こえた声に咄嗟に振り向いたデューの視界には、一面の……

「むぎゅっ!?」
「あらあら、いきなり積極的な子ねぇ☆」

 抜群のスタイルを惜しげもなく見せる、身体のラインばっちりな服。その開いた胸元にデューは顔面から飛び込む羽目になった。

「デュ、デュー……おぬし……なんというラッキースケベか!」
「ぷはっ……なんだそれは」
「ほうほう、このわしのキュートな魅力に反応しないと思ったら……年上好みかの?」

 ニヤニヤとからかうミレニアにデューは冷めた視線を送る。
 そんな一連の流れにシュクルは首を振って、

「ミレニア、彼奴に子供らしい反応を求めても無駄ぞ。記憶と一緒にその辺も忘れとる」
「なんじゃ、つまらんのー」

 ミレニアはぷうっと頬を膨らませた。

「ごめんねぼうや、お姉さんよそ見しちゃってたみたい」
「……ぼうやじゃない。だが気付けなかったオレも悪い。済まなかったな」

 紫黒の髪と瞳をした美女が己の不注意を謝るとデューは一部分に多少ムッとしながらも素直に頭を下げる。

「あら、しっかりした子ねぇ。おねーさん感心しちゃうわ~☆」
「……失礼ついでに訊くが、オレの事は知らないよな?」
「?……初めて会うと思ったけど? どこかで会った事…………ってぼうや、それまさかナンパの文句じゃないわよね?」

 今までの流れからそんな事を言う美女は明らかに不機嫌な顔をするデューに慌てて訂正した。

「いやん、そんな顔しないでってば……ちょっとしたお茶目なジョークよん☆」
「誰がそんな古臭い手を……もういい」

 はぁ、と溜息を吐くとデューはそっぽを向いた。
 これ以上は時間の無駄だと判断したようだ。

「行くぞ、もっと情報を集める」
「これ、待たんかデュー!」

 すたすたと歩いていくデューを追いかけようとするミレニアだったが、はたと思い当たって美女を振り返る。

「慌ただしくてすまんの、それじゃあ……」
「はいは~い、またねん♪」

 次があるかなんてわからないが、なんとなく美女はそう言って彼等を見送った。

「変わった子達ねぇ……さてと、あたしも行かないと」

 くるりと踵を返すと、石畳に軽やかな靴音が鳴った。
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