そうだ、温泉に行こう。

 気を取り直して、メインの温泉。
 広い露天風呂に男女の湯を隔てる高い仕切り。その向こうではドヤドヤと賑やかな声が聴こえる。

 ああそうか、圧倒的に男性陣のが多いもんなあ……メフィオは仕事があるし、貸し切りならここは俺ひとりか。

「あー……」

 ちゃぷ、と湯に浸かると、あまりの心地良さにおっさんみたいな声が出た。マオルーグに聴かれたら、またツッコまれるところだったろう。

 いやしかし、疲れも流れて癒されるってモンだ……これはとろけるわー……

 そんな感じで堪能していた俺だったが、不意に仕切りの向こうから話し声を耳にする。

「いやあ、それにしてもマオルーグは良いカラダしてるよね」
「ラグード王子こそ、鍛え上げられ均整のとれた肉体……日々の鍛錬が浮かぶようですな」

 こ、これは……なんかいわゆる、あるあるな会話……!

「スカルグはその細い体からよくあれだけの剣技を繰り出せるな」
「よく言われます。いくら鍛えても何故か肉がつかないんですよ」

 うーん、とりあえずお決まりのリアクションで聞き耳を立ててみたけれど……割と知ってることだし、今更だな、これ?

(風呂はまた後でゆっくり入るとするかあ)

 盗み聞きなんてはしたない真似はやめて、この辺で出ていくかね、と。

「おっ?」

 立ち上がり、濡れた足を床に置いた、その瞬間つるりと滑る。

「にゃああっ!?」

 と、ここで派手にすっ転ぶ俺じゃあない。
 どうにか踏ん張って持ち堪えるが……

「どうした勇者!」
「大丈夫かい!?」

 四方を囲われている訳でもなく、一枚の仕切りに隔たれているだけならやろうと思えば行き来できてしまう訳で。

「ひえっ」

 こっちは咄嗟に湯船に戻ってどうにか隠せたけども、慌てて来たマオルーグとラグードの方は……

「ま、魔王とドラゴン……!」
「貴様なにを言っ……あっ」
「あ」

 ごめん、見ちゃった。何をとは言わないけど。

「ぬあああああっ!」
「お、おちつけマオたん! 割と見慣れたモンだから!」
「それはそうかもしれぬが誤解を招くわ!」

 そう、繰り返すが今でこそ可憐な美少女プリンセス、ユーシアの前世はおっさん勇者。男の裸なんて……というよりも、まだそっちの方が付き合いが長いくらいだ。
 なんつーか、初々しく恥じらうリアクションとかできなくてメンゴ。

「ご無事ですか、姫ー?」
「ちょっと転びそうになっただけだ。大丈夫ー!」

 塀越しにスカルグに返事をして、それから男女の湯の仕切りをじっと見つめる。

「ここの仕切り、周りをぐるっと囲った方が良さそうだな……」
「……それも手配しておくよ」

 宿のオープンは多少遅れるが、まあ仕方ないだろう。
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