マオルーグと手紙

 後日、実家から我のもとに手紙が届いた。
 前回の返事で両親を安心させることができたのだろうか、とおそるおそる封を開けて中身を読んだ我は、机に突っ伏すことになる。

「マーオたんっ!」
「ぼぎょどわっ!?」
「なに、こないだの鳴き声の進化形?」

 いつもいつも貴様は急に……紳士の部屋に淑女が気軽に来るものではない!
 そんなツッコミより早く、手紙を後ろ手に隠す。

「どうしたん……あ、もしかしてまた親御さんから?」
「き、貴様には関係ないだろう!」

 いや関係あるといえばものすごくあるのだが、むしろ一番見られたら不味い相手だ。
 ついさっき読んだ手紙の内容が脳裏をよぎり、手に力が入る。

「まあ、見られたくない気持ちもわかるけどな」
「む?」
「そこまで嫌がられて無理矢理暴こうとはしねーってこと」

 我の懸念をあっさりと否定すると、勇者は何もするつもりはないと言わんばかりに両手をひらひらさせて見せる。

 ああそうか、外見で忘れがちだが中身はおっさん……ちゃんとした大人だったな。

「んで、返事書いて喜んでもらえたか?」
「あ、ああ……」

 喜んでもらえたどころか……

「見たことのないテンションの返事が来た」
「なんて?」

 そう、今回の手紙はテンションがおかしかったのだ。

『貴方が女の子のことを長々と語るなんて珍しいわね!』

 いや、主君で護衛対象だが?
 十近く年下の一国の姫だが?

『詳しく! その話もっと詳しく!』

 母上、そんなグイグイ来る御人だったか?

『やっとマオちゃんにも春が来たのね! 今夜は赤飯にします!』

 母上ーーーー!
 マオちゃんはやめてくれとあれほどーーーー!

……とまあ、他はともかく勇者に関する内容がそんな感じだったので隠してしまったのも仕方ないことだと思う。

「……喜んでは、もらえたな……」
「そっか……」

 我の疲れ果てた表情に何かを察したのか、勇者はそれ以上追及せず、生温かい笑みを向けた。





――親愛なるマオルーグへ。

 お手紙、ありがとう。
 新しい環境で楽しく暮らしているようで良かったわ。
 時々どこか遠くを見ているようだった貴方が、居場所を見つけられたみたいで。

 きっとこれからは賑やかさが伝わってくるようなお手紙が届くのでしょうね。
 貴方を受け入れてくれた小さなお姫様によろしくね。

 お返事、楽しみにしています――
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