マオルーグと手紙

 自分の部屋に戻ると浮かんだ内容が消えないうちにと机に向かい、筆を取る。

 リンネのこと、滞在している友好国の王子たち、同僚のファイにスカルグ……最初は不安だったが、個性的な面々のことを思うと案外書くことは多く白紙はみるみる埋まっていく。

 さて、ここからだ。

『……それから、今はリンネの姫に護衛としてお仕えしています』

 さらさらと動いていた筆が止まる。
 手紙とはいえ、魔王が勇者を両親に紹介か……なんとも妙な響きがあるな。

『ユーシア姫は明るく快活で人懐っこく、少々お転婆が過ぎるのが悩みどころですが……たとえるなら野道に咲く小さな花のような、世の王族にはない魅力をもった少女です』

 本当は『優雅さや気品に欠けおよそ王族とは言えない中身はガサツなおっさん』とでも書いてやりたかったが、さすがに仮にも一国の姫で一応主君にあたる人物を両親にそう説明するわけにはいかない。
 我は大人だから、ここは微妙に言葉を濁すことにした。

『隣国の王子や護衛や騎士……裏表も分け隔てもない彼女の周りには自然と人が集まります』

 これは紛れもない事実だ。
 憎しみはないとは言ったが、かつての宿敵だった我をあっけらかんと受け入れたのには正直驚いた。
 恐らく前世でも、そんな勇者の人格に惹かれて仲間が集まっていたのだろう。
 一人は途中で別れ、もう一人は倒れ、最期は独りだったようだが……

 勇者という宿命に縛られていなければ、一体どんな人生を……おっと、思考が逸れたな。

『彼女といるといつも賑やかで、私も退屈しません』

 これも事実だ。

 振り回されたりしてはいるが、なんだかんだリンネでの生活は楽しんでいる。

『良き環境に恵まれましたので、どうか心配なさらず。今、私は幸せです』

……なにやら、改めてこう書くと照れ臭くもあるが……父上と母上にはちゃんと告げておこう。

 当たり障りはないが、嘘偽りもなく。

「これでよし、と……」

 締めの文章を書き出し、ひととおり読み返すと溜息をついた。
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